短編夢(メイン) | ナノ




彼は天才だと言われる。
彼だけでは無い。皆彼らを天才だと言う。片や生まれもった才能だろう、世間的に兄と呼ばれる彼は本物の天才だった。が、双子としてその隣に立つ彼は私達と同じ凡人でしかない。兄に憧れてか、はたまた周りの目を恐れてか、彼は凡人から天才を目指し見事その名を手にすることができた。
皆は知らない。
天才と呼ばれるそれは積み重ねてきた努力が結晶となり、それらを表情、言葉として表さなかった彼のポーカーフェイス故にである。
毎日毎日飽きずに勉強して鍛えてまた勉強して、自身の肉体、精神を限界まで追い込んで手に入れた結晶。
知られざる天才故の努力と言えよう。

努力し天才と言う鎖は子供は、大人となった今もなお彼を縛り付け苦しませる。
子供の頃は大人の目が彼を苦しめ、大人になった今は世間の目が彼を新たに苦しめる。

天才とうたわれた双子のサブウェイマスター。
地底の覇者。なんてありきたりな名前。兄と呼ばれた彼はつまらないテロップだと鼻で笑いますが、彼にとって新たな重りでしかない。
「ひっ…っ…グス………」

押し殺された悲鳴は唇の端から僅かに零れる。
生理的にこみ上げてきた涙と鼻水は彼の顔を濡らす。
啜り、嗚咽し、また零れて。グルグル回る感情は、彼をひたすら苦しませる。

我慢してきた。そして今もなお我慢している。何に?周囲の声、目、感情。
自身へと飛んでくる好奇な矢印に、彼はひたすら我慢してきた。

だが、所詮彼も人間。

見えない鎖に首を絞められ、見えない重りや理想を背負わされ、他人が抱いた理想を押し付けられた彼は耐えきれず泡を吐く。
辛い、つらい、ツライ。
そして苦しいと泡吐いた彼は涙を流し、本来なら泣き叫ぶであろう悲鳴を噛み締める。
もしかしたら私以外の誰かに見つかるかも知れない。
そう思うと、彼は思うように声を荒げれないのだ。だから、こうして、自身の部屋にあるクローゼットに閉じこもり、狭い暗い空間の中で小さな悲鳴をあげる。

「…名前……名前っ」

『はいな』

「ひっぐ……グズ……グズ」

薄い扉越しからは幼なじみの声。私がちゃんとそこにいるのだと理解すれば、彼の嗚咽が酷くなる。

ひたすら私の名前を呼びつける彼、クダリ。幼なじみと言うポジションに立ちながらも、所詮私は凡人の中の凡人。
何も取り柄もない私は、こうやってクローゼットの前に座り込み彼が出て来るのを待つしかない。


膝を抱えた私は、彼の嗚咽に耳を傾けた。







慰めの言葉すら、彼を苦しめる

ただ私は見守るしか出来ない。









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