短編夢(メイン) | ナノ


若いながらもポケモンジムを短期間で突破し鍛えられた数匹の手持ちのみで、リーグ制覇したトレーナーの存在は瞬く間に地方全体へと存在を広めた。

凄腕のポケモントレーナーだと評価されている彼女は、取材やらなんやらで遠い地方へと行ったりきたり。中にはジムリーダー試験テストを受けるのでは?と根拠のない噂で更に巷を賑わしているらしい。
そんな彼女が家に戻ってきた。
そんな情報を聞いた私は、ゴルバットに乗っては彼女の家へと向かった。彼女の情報を1から100まで知り尽くしているのです。知らない事などない。

鍵などかけていても私には通用しない。ピッキングで難なく開けた先には見慣れた世界。

気配を感じます。
扉の閉まる音が室内と響き渡っていると言うのに、それは動く気配は有りません。

不用心な。


上がり込んだ彼女の家、広がるリビングは先月と変わらない姿。
やはり、あれから彼女は掃除などしていなかった様です。

存在を主張するかの凛としたトロフィーはバラバラに砕けている。ボコボコに穴の開いたメダル、燃えかけた賞状のカス。
リビングの床を埋め尽くすそれはゴミと貸した産物達。
ポケモン型のトロフィーすらも手足がもがれ、刻まれるプレートの文字は何かによって抉られ読み取る事が出来ない。

ゴミ屋敷

そう言っても可笑しくない景色。
相変わらず生活臭のしない殺風景な部屋の真ん中。
見覚えのある後ろ姿が私の視界に止まる。

ちぎれた賞状の山の中、背を向けたまま座り込むのは誰でもない彼女、名前ただ一人。

電気が消されたリビングの中、私はゆっくりと名前へと近づく。

カツン。

ブーツの先に当たったのは鉄の何か。
筒の中から顔を覗かせるのは丸まった賞状。
そして大量の手紙が雪崩を起こしている。
再び視界をリビング全体へと戻す。ゴーストポケモンが出ても可笑しくない位薄気味悪い空間の中、電気をつけないままそれはただ静かに座っていた。

反応は無い。私が来ている事は気づいている筈です。扉が開いた音、ここまでくる間に鳴らし続けた足音。イヤでも彼女の耳へと届いている筈です。しかし、彼女からの反応は全くない。


「息はしてますか?」

『止めてくれますか?』

まだ生きてはいるようです。しかし先月聞いた声よりその声量は少なく、酷く枯れている。見下ろす背中も以前より小さく感じます。痩せたのでしょうが、私には関係のない事です。
床に転がる4つのモンスターボールからポケモンが出てくる気配は有りません。いや、むしろポケモンは居ないのかも知れませんね。
予想はしていましたがこうも早く手放すとは思いませんでした。この様子からしてボックス内のポケモンも今は空でしょう。

彼女のすぐ隣へと移動し、横顔を捉える。室内は暗いと言うのに彼女の白い肌が酷く目立ち、同時に腫れた目元が主張していた。

「泣いていたのですか?」

『さっき枯れました』


どれだけ泣いたかなんて知りません。
リビングをぐるりと見回す。大きな液晶画面に入るヒビ、無造作に投げ出された椅子に削られた壁紙、食器棚すらも見事に倒れています。一体彼女はどれだけ暴れたのでしょうか。まぁ、いいでしょう。今彼女が動けないのは此方としては好都合です。


「あなたのポケモンはどこに?」


ピクリと動いた指先。光が消えた瞳は動く気配は無い。ただただまっすぐ散らかったリビングを見つめるだけ。


『そこら辺』


まるで老婆。
スカスカの声量は老いた「あなたのポケモンは、私が頂きます」

良いですか?

そう問いかけた所で彼女からの反応はない。これはもう精神病院にぶち込まない限り治りはしないでしょう。
静かに立ち上がった私は散らかるゴミを踏みつけ、ポケットに入れていた通信機を手にとった。


「私です。ランスです。ポケモントレーナーの名前のポケモンが、辺りにいる筈です。回収しなさい」

通信機越に聞こえた部下達の声。時折混じるラムダのだらつく声をぶちきり私は名前の家を後にした。








ポケモンマスターのなれはて
誰もが憧れるそれに、あなたはなりたいのですか?





20121212



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