短編夢(メイン) | ナノ


きっとこの先彼女と共に歩んでいく未来では、楽しい事、嬉しい事、辛い事、悲しい事、様々な出来事が起きてそれを共感し最後は笑って手をつなぐ。
終わり良ければ全てよし。
ジョウト地方では有名なことわざ。

それを繰り返し乗り越えた先は、見えない不透明で不安ばかりな世界。
でも、それでも彼女は僕と一緒に居てくれるのを知っている。
僕は彼女が大好きで、彼女も僕を大好きだと言ってくれる。

手を繋いで、ちょっと冷たいと感じたその細い手のひら。
僕の暖かい体温を分けてあげると両手で包んでみれば、恥ずかしながらもありがとうございます。と目を細めて笑う。
ノボリみたいに堅苦しい口調ながらも、幼なじみのカミツレにすら見せない微笑みはたった一人の僕へと向けられる。
表情が乏しい訳じゃない。
他の人と比べて顔の筋肉が固いだけで、控えめに笑ったり驚いて目を見開くときだってあるんだよ?

隣に居続ける事で僕の知らない彼女を、また一つまた一つ発見して感動して手を再び握る。
触れた先には必ず彼女が居て、満たされていく胸の中にある何かが水音たてるの。

ああ、これが幸せって事なんだな。理解するのにそう時間はかからなかった。


でもね?

何かが僕へと語りかけるんだ。

何だろうと頭かかえても其処からじゃない。手と足もハズレで、気紛れに当てた手のひらが感じたドクンと言う鼓動。

僕の胸の真ん中にあるやつ。
それは其処から発していた。
目を閉じれば、並々の水が注がれた器がポツリ。滴ってきた雫を器で受け取る誰かが其処にいた。
見たことのある、誰かに似た誰かさん。
そんな誰かさんがね?僕にこう伝えるの

あと一滴。

足りないと。

彼女と共に居る事により、花を咲かせるような暖かいものはいっぱい見てきた。
やっと手に入れた休暇でライモンの遊園地へと出掛け、トリプルアイスを落としそうになり2人で慌てながら食べたりした。
バチュルの孵化作業と称してピクニックに向かったり、沢山の楽しい思い出を作り築き上げてきた。

笑って、驚いて、照れて、はにかんで


幸せ。
幸せ。
スッゴい幸せ。

それでも、最後の最後な一滴を欲する。
足りない。足りない。
頂戴?頂戴?

胸の中にある器をギリギリまで満たしくれ。
そう囁く。
ちょっとだけ、あとちょっとだけ足りない。

あと一滴。
幸せだと器全て満たす最後の一滴がどうしても見つからない。
お願い。
お願い。
探して頂戴?

何だろう?
何だろう?

と考えて、バトルも手が付かなくなる位考えた。

いっぱいな幸せを見てきた。
彼女の喜ぶ笑顔、暖かい微笑み。
胸を幸せにする表情は見尽くした。

で、分かった事が一つ。

まだ見てない彼女のもう一つの表情。
きっとそれが見れたら満たされると思うんだ。

では、それを見るためには何をどうすればいいのか?

とーっても簡単!






「名前の泣き叫ぶ表情、見せて頂戴?」

『クダ……』

リ?

大好きを込めた片手で隣に立つ名前の背中をポンと叩く。
僕の気持ちを背負った名前がフワフワ髪の毛揺らして、深い溝の中へと落ちていく。
どんな表情するかな?
ってワクワクした気持ちの中に紛れ込んだのは、どしゃりと名前が崩れる音が聞こえる。

しゃがみ込んで笑みを浮かべながら覗き込めば、涙目で此方を見上げる名前と目が合う。

『……クダリさんっ!』


ああ!
スッゴい可愛い!
見てよ見てよ!
涙浮かべて唇が小刻みに震えてる!
まるで夜の営み中みたいな顔で僕を見上げてくるんだよ!
ああ!
これスッゴいヤバい!
腰に凄く来ちゃう!

足を打ったせいかな?
さすりながら僕の名前を呼ぶ。

うーん、違うね。

手を伸ばして助けてって声を絞り出している。
あぁ……初めてみた。
可愛いな?その顔今まで見たこと無いんだ。
これ今晩のオカズとしていけるんじゃ………



『っ!クダリさん!』



なぁに?
首を傾げて名前の名前を呼んだ。目を見開いて、限界まで腕を伸ばした名前。髪の毛が乱れて沢山の涙が彼女の頬を濡らしては………

消えた。




あれ?

消えちゃった?

あれれ?名前…………?






泣き叫んだのはトレインの激しいブレーキ音。

目にも止まらない残存が僕のすぐ目と鼻先を横切り、被っていた帽子が風圧により遙か彼方へと飛ばされた。


ピシャリ。

僕の頬を濡らしたのは

赤い水。

途端にフラッシュバックするのは、名前の最後の表情。










「……名前………どこ?」











非常ベルと、叫び回る野次馬なんて最早どうでもいい。

其処に居たはずの名前に跨がるのは見慣れたトレイン。
退いてよ……ねぇ‥退いてよ?


ぐるぐる回る台詞の環状線は終わりを見せない。
同時に最後に見せてくれた彼女の表情は、僕の思考回路全てをかっさらいゆっくりと最後の一滴がやっと注がれた。



器いっぱいに満たされた水が揺れる。

同時に

持っていた器を手放した<僕>が、『僕』へと指を差した。







ざまぁみな!













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