僕のご主人様は凄く強いお人。
バッチだって地元だけじゃなく海や山の向こうまで行って、激しいバトルを勝ち抜いた本当に凄いお人!
ジュプトルの姐さんの話じゃ雑誌にも乗ったくらい、本当に有名なお人!
見た目だって僕のお嫁さんにしたいくらい可愛ければ、コロコロ転がる様な軽やかな声。
サーナイトお嬢みたいに上品に笑う姿はやっぱり綺麗で、僕はご主人様が大好き。他のトレーナーの前に居る時はシャキッとしていて、いつもニコニコ。
コロコロ転がる言葉と笑顔は花をいっぱいに咲かせてくれる。そんなご主人様はモテモテのホヤホヤ。毎日毎日大忙し。
だけどね、今のご主人様スッゴくだらしない。
お家に帰ると、ご主人様は玄関入るなりバタンのキュー。
うがぁ…って変な声上げて倒れ込むご主人を持ち上げて行くのはダーテングの兄さん。
あぁ、また何だな。って思って居る間に知らぬ顔でベッドに運んだ後、ご主人様が部屋から出て来る日はきっと3日後あたり。
いつもの事でそれが当たり前な事になっている。
戻ってきたダーテングの兄さんを横目に、ジュプトルの姉さんがご飯の支度をし始め散らかった部屋の片付けを始めるサーナイトの姉さん。
ボールに入っているブラッキー君はご主人様loveだから、ご飯の時意外は絶対に出て来ないと思う。
僕の頭の上で何かが震える。
ああ!そういえば新人のバチュル君が乗っていたんだ。
バチュル君は慌ただしく回る先輩達に、首を傾げながら後を追う。うん、バチュル君は知らないよね?これは先輩である僕がしっかり教えてあげないとね!
『バチュル君はコレは初めてだよね?』
『うむ!僕っちのマスターはどうした?』
『ベッドでお休みしてる』
『ベッド!』
ならば僕っちも一緒に行くのだ!
と走り出そうとしたバチュル君を、僕は慌てて止める。その最中ムギャ!と足元から上がったバチュル君の悲鳴は聞かなかった事にする。
だってバチュル君小さいから力加減なかなか分からないし……。
『邪魔しちゃダメだよ』
潰してしまった事を誤魔化すように屈み込めば、ポコポコ怒るバチュル君が何でだよ!と抗議の声をあげる。
『ご主人様スッゴい疲れてる』
寝る間も惜しんで戦術構成して、食べる時間を削って雑誌取材の相手したり本当に大変。
向こう行ってバトルしてあっち行って長いお話しての繰り返し。僕達のご飯の準備だけじゃなくトレーニングまでしてくれるご主人様は、フラフラフラリン。
やっと休めるお家では道中に倒れているコラッタみたいに、ピクリとも動かない。
ぐっすり夢の中。バトルでゴーストのさいみんじゅつ食らった時の君みたいね。
そう言ってやると、以前のバトルで爆睡してしまったバチュル君はうぬ…。と視線をフラフラ。
きっとまだ根に持ってるかも知れないって思ったからこそ、それを僕は遠慮なく使う。
『そんなにぐっすりなのか?』
『うん!』
だから邪魔しちゃダメダメ。
ならば仕方あるまい!僕っちも寝ている時にシャドーボール受けた時の辛さ分かった居るからな!
何をどう勘違いしたかは分からないが、バチュル君が分かってくれたのなら安心。
なら僕っちは電気でもかじってる!
コンセントへと軽やかに跳ねるその後ろ姿は、ご主人様に注意されないと言う事を知ってかやけに明るい。
残念ながらジュプトル姉さんに遠慮なく摘まれるだろう数分後に、僕は知らない顔でご飯を食べよう。
見つめる先には、僕達とご主人様を隔てる薄い扉。
3日後までご主人様に撫でてもらえないのはつらいけど、その次の日からボサボサ寝癖なご主人様が抱き付いて来ると分かっている。
いっぱいぎゅうぎゅうのなでなでのはぐはぐして貰うんだ。
それまで我慢の我慢!
だからご主人様!
ゆっくり休んでね?
××日後にまた
翌朝未明、アパートの●×△の寝室にて女性の死体を発見。近隣住人のポケモンが連日騒いでいると通報にて、市内の警察が駆けつけた所死後数日立っている遺体を発見。
遺体の外傷は無く、検死結果によると過労死との事で、身元はポケモントレーナーである名前さんで間違えは無く……………
了
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