方程式の惨(さん) | ナノ


□孕み方


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最近は委員会が無い事から、私達はよく美那の元へ行くように成っていた。
彼女は未来から来たと言っているが、私は天女と言う方が彼女に合っていると思う。
艶やかに伸びた髪の毛は揺れる度に甘い甘い香りを漂わせ、綺麗な肌に荒れた事が無い白い手、ふわりと笑みを浮かべるその存在は春そのものを連想する。それと同時にふと脳裏に浮かんだのは、は組の亮。そういえばあいつも美那の様に笑うな。と、2人の雰囲気が似ていると思い描いた。





造花と義眼の孕み方









桜に近い髪の色をしているせいか、口元に手を当て僅かに見える唇の端がどこか似ている。なんて思ってしまう。
そんな時だ。
パタパタと廊下を走る足音はまるで一年生の様で、忍ぶにはまだまだ遠いな。と抱く位。

だが、その足音は突如として私達の部屋へと入り込んで来るなり、近くにいた雷蔵の元へ飛び込んだ時には流石の私も驚いた。
部屋へと飛び込んで来たのは先ほど迄思っていた美那自身であるが、座る雷蔵の腰元に両手を回しすがりつく様子に私は息が止まった。
雷蔵へと縋る美那は体を震わせ、細く形が整った指先が雷蔵の制服に組み込んでいるのが見える。
そして耳を済ませば聞こえてくるそれは、鼻を啜る音だ。

「美那ちゃんどうしたの?!」


慌てた雷蔵が美那の背をゆっくり撫でれば、鼻を啜りながら雷蔵の名前を呼ぶ。
私達の間に飛び交った矢羽根には緊張が走り、まず先に何が起きたのかを把握する為に再び声をかけた。

「美那、どうした?」

「お腹壊したの?」

「怪我をしたのか?」

「辛い事でもあった?」


雷蔵と交互に交わされる質問に、美那はうんともすんとも言えない。雷蔵と顔を見合わせる。どうするか?


「誰かに虐められた?」

ピクンと肩が揺れた。
途端に押し殺して居た声が部屋の中をいっぱいに満たす。先ほどよりも力いっぱいに雷蔵にしがみつく美那の姿に胸が痛み、同時にガシリと鷲掴みされる様な感覚に歯を食いしばる。ビリビリと背を伝い這い上がってきた電流に私の意識が乗っ取られた。


虐められた。

つまり、手を上げられたと言う事。

美那は天女だ。彼女が此処に来る前の場所でどんな生活をしていたのかを聞いた事がある。戦が無い未来と言う世界、血で汚れる事は無く友達と共に笑いながら平和に暮らす世界。
だから美那の手は綺麗で、汚れてはいなかった。そんな美那が血で汚れきっているこの時代の人間に手を上げられた。そう思うだけで腹の底から沸き立つ怒りを抱き、私は静かに立ち上がる。


「さ…三郎?」

「は組の奴、確か食堂に向かったのを見たが……」

「そうだね……僕もそれは見たよ」


実技の授業を終えたは組達。相変わらずボロボロな姿に五年生で有りながら情けないと抱く。その最中、演習中にまともな食事にありつけ無かったあいつらに、食堂のおばちゃんが数刻だけ調理場を貸してくれる事になったと廊下ですれ違った亮から聞いた。この時間帯ならば、は組一同は今頃食堂で自身等の飯を作っているに違い無い。許せないと思った。
何もしていないか弱い美那に手を上げておきながら、クラスメート皆で和気あいあいと楽しむあいつらが。



「一発入れてきてやる!」

「!…待って三郎!」

「雷蔵止めるのか?」

優しい雷蔵だ。手を出す私を止めに入ったと思えたが、違うよ。と小さく顔を左右に振って見せた。


「僕も行くよ…それに僕達だけじゃなくて3人も行きたがっているみたいだし…」

其処で自身等の部屋の向こう側。見慣れたシルエットが襖に映し出され、同時に親しき友人等の気配を三郎は感じ取った。




* * *



グツグツと左右上下と不規則なリズムを刻む蓋が踊り、それをじっと眺めているのは薄桜色と褐色の髪を結うは組の生徒。片方がまだかな?と、問えば、まだですね。と、短く返されてきた。
鼻を擽るのは食欲を酷く沸き立たせる料理の香り。四方八方からコッチを煮ろや、その野菜は向こうの鍋に!等と賑やかな声が挙がって居る。そして同時に一枚一枚の皿に盛り付けられて行く料理の数々に、摘み食いはするなと言う方が無理であった。
一人が盛り付ければ端っこで一人が摘み食い。
それに待ったを掛け叱り飛ばせば、何やら背後でモゴモゴゴックン、うん、美味い。の声上がる。そんな無限ループを繰り返しながらの調理場は楽しそう。ゆっくりな足並だがそれでも人数分の食事を完成させて行くは組の決断力には、天井からひっそり覗くは組実技、教科の両先生も叱って良いのやら褒めて良いのやら複雑な気持ちだ。

さて、賑やかな調理場のの端っこで米が炊かれて行く様を見守る影2つ。先に述べた2人である。は組人数とおかわり分の余分な米を炊く2人は、しゃがみこんでは火を調節し焦げ付かない様に蓋から零れる蒸気を観察する。皆の主食が掛かっているのだから失敗する訳には行かない。


「まだかな亮っち」

『まだですね。きっと』


同じ質問に同じ解答。これで一体何回目のやりとりをしただろうか?
疑問がフツリと浮かび上がった亮だが、自身の直ぐ隣から名を呼ぶ声に薄桜色は静かに顔を上げた。


『どうかされました?』


下から見上げた視線の先、其処にはどこか不機嫌そうな顔付きをし腕を組む我がクラス、ムードメーカー様が仁王立ちして居られた。


「亮、起立!」

『?』


何故彼が不機嫌なのか?亮は思い当たる節が無い事を記憶内にて確認、言われた通りに静かに立ってみせると彼は突如として亮の胸倉を掴んだのだ。

突然の事に周り一同はギィヤアア!謀反じゃ!御乱心だ!と各自騒ぎ立ては彼を止めに手を伸ばした。
だが……。



「亮何だこの臭いは!」


胸倉を掴み取った彼ではあるが、鼻をスンスンと亮の制服を嗅いだ。は組一同は良かった。と安心し胸を撫で下ろすも、彼が発した台詞にあちゃー。と眉間に皺を寄せる。


『臭いますか?』

「臭う!めちゃくちゃ臭う!亮、忍者の卵とは言え、体臭にはそれなりに気を付けなきゃ駄目じゃないか!」

こんな臭いする忍者なんて、敵に一番に見付かるぞ?!と胸倉から手を離した彼が、腕を組みキャンキャンと騒ぐ。それに釣られた亮は自身の制服の臭いを嗅ぐも、前髪の向こう側で目を細め再び目の前の彼へ視線を戻した。


「五年生ならば五年生らしくしっかりとした面を後輩達に見せなくちゃいけない。だから、亮」


その臭い消して来い。着替えは有る筈だろ?

やれやれと溜め息を付きながら、飯の事は俺達に任せて行ってこい。と手を振る。それに亮は少しばかり考え込んでは、分かりました。と首を縦に振り静かに食堂を出て行って。

食堂から出て行った亮の背中を確認し、彼はパンパンと手を叩き作業が止まっていた同級生達へと向き直った。


「ほらお前ら!!亮が来る前にさっさと完成させるぞ!」

















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