方程式の惨(さん) | ナノ


□蜥蜴の


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「其れでね数馬ったら女装に使う桜の着物を見た途端に、亮君に会いたいな〜なんて呟いてさ………」

「なっ!!とと藤内!!何でそれ知ってるのさ?!」

「近くに座って居れば、誰でも聞こえるよ」

「だだだだからって!何で亮君がいる目の前で言うんだよ?!はっ…恥ずかしいじゃないか?!」




蜥蜴の骨を噛み砕けば




最後には消えてしまいそうな小声となってしまった彼、数馬は耳迄真っ赤にしてはふさぎ込んでしまう。
それにコテンと首を傾げた五年生が目の前で正座していた。薄桜色の髪を揺らし、机へと伏せる三年生数馬に分からないと言った雰囲気を醸し出している。


『何故、三反田さんはふさぎ込んでいるのですか?』

「何故って……亮君本気で言ってる?」

『その人物を連想させる物や色を見て会いたいと、そう思ってしまうのは当たり前な事ではないのですか?それに、会いたいと思って頂ける程大切な時間を割いて貰っているのです。これは喜ぶべきでしょう』
「本当?亮君。僕変な事を言ったのに引かないの?!」

『僕も以前お話で聞いていた女装の結果を聞いてませんから、皆さんにお会いしたいと考えていた所でしたよ』

「(亮君、絶対たらしだ)」

しかも、天然の。


やれやれとため息を吐いた俺の目の前では、うわぁ亮君!と抱き付く同級生と飛び級した事で有名な編入生、亮君の2人が居た。
以前、亮君と一緒に勉強をした時の話だ。今度三年生合同で女装の授業が有ると告げるも、未だにうまく化粧の行かない俺達は亮君に相談した。

五年生になれば一通りの授業を受けているに違い無い。同じ三年のくの玉の話によれば、亮君は五年生の中でも優秀だと聞く。ならば、女装の腕前も高いのではと相談した所、腕前が高いの問題では無い事に驚いたのは後の話。

白塗りを塗る前に肌の質感を保つ為の液状の作り方や、白塗りの正しい塗り順、季節に合った紅の色に今巷で若い娘達の間で流行っている香等。覚えきれない程の知識を教えてきれた。
勿論、それだけでは無く女性らしい歩き方のコツ、仕草やまさかの流し目の角度迄指導した時には本当に驚いた。
女装をしていない亮君がお手本だと見せ、覆われた前髪越しに垣間見えた彼の流し目には心拍数が変に跳ね上がった事は数馬には絶対言えない。

只でさえスラリとした亮君のお手本は、女装無しでも本当の女の子に見えてしまい俺は自身の頭を数回叩く。
数馬は数馬で亮君の指導を頑張って覚えては、誉められる度に顔が緩んで居たのを俺は見逃さない。

そんな感じで亮君の指導を終えた次の日、女装の授業は高い評価を貰っては終えた。

孫兵は元々顔が整っているから、言わずもがな高評価勿論仕草に化粧方法も完璧でだ。作兵衛達はあの性格や口調があまりにも表に出過ぎた為、娘らしくないとかで評価が低いかったらしい。

では、俺達は?

指導者の教えて方が良かったのだ。孫兵に並ぶ高評価を貰った瞬間、みんな凄く驚いていた。

長時間の中での崩れない化粧、自然に見える娘の仕草や歩き方。
亮君の教えられた方法を少し工夫して、自分なりに手を加えたのだ。
まぁ、数馬は亮君の髪の毛の色、桜色な着物を選んだせいで自身の髪の色と不釣り合いな感じとなってしまい、組み合わせが悪いと俺より僅かに低い評価を貰っていた。でも、以前取ってしまった低い評価に比べれば断然良い方であり、忘れない様にと何度も予習しなくてはならないと決め込む。

目の前で数馬から評価を聞いた亮君は、役に立てて嬉しいです。と、相変わらずの優しい笑みを浮かべ同時に緩やかな雰囲気で周囲を満たす。
勿論それに抱きついていた数馬にも感染したらしく、口元が緩んだ状態でありがとう亮君と手迄握っていた。

数馬も数馬で亮君をかなり慕っているから、今はそれで良いが行き過ぎた慕い方は時に周囲へと誤解の目を生み出してしまう。
此処は俺がなんとかしないと不味いよね?
と、一息ついた時だ。
亮君がふと視線を上げた矛先が何もないただの襖で、俺も釣られる様に襖へと目が釘付けになる。
すると、タイミング良く襖へと差し掛かった一つの影に、俺は無意識に息を飲み込んだ。

体格からして忍たまじゃないのは明らかだけど、くの玉にしては気配が丸分かり過ぎる。ん?じゃぁ、誰かな?と疑問を抱いた時に気持ち良くスパン!と開けられた向こう側には、つい最近見慣れた人物が立っていた。


「やっぱり数馬君と藤内君だ!」


良かった。他の子だったらどうしようかと考えちゃったよ。と、彼女は部屋へと入り込み、俺の隣に直ぐ腰掛けた。


「あれ?美那ちゃん?!何で此処に」


今や忍たま四年生を差し置いての学園のアイドルと化した美那ちゃん。可愛らしい着物はくの玉からのお古を拝借したらしいけど、それでも彼女には似合っておりお古とは思えない馴染み具合を醸し出す。
揺れるのは髪飾り。タカ丸さんが美那ちゃんへ、と送ったそれはやはりお洒落に気を使う学年だけに酷く似合うものだ。動く度にシャランシャランと奏でる音色に頭の中へと稲妻が走り、美那ちゃんと言う人物から目を離せなくなる。
突如として現れた彼女により、亮君に抱きついていた数馬は直ぐに離れ美那ちゃんへと向き直る。


「こんな所でどうしたの?」

「えっとね、五年生の長屋へと行こうとしたら迷子に成っちゃって……途中で数馬君と藤内君の声が聞こえて…私は」


美那ちゃんが言葉を紡げる中、視界の隅っこで何かが立ち上がる。
それが一体何なのか?俺が顔を上げる前に数馬が名前を呼んだ。


「亮君、もう行っちゃうの?」

『ええ、この後クラスメートの方と約束がありますので』


遅れてしまうと相手方にご迷惑が掛かりますから。そう言って音を絶てずに立ち上がった亮君は、ふわっと柔らかく笑っては美那ちゃんの隣を通り過ぎそのまま廊下へと出ていってしまった。

だけど、途端に美那ちゃんが待って亮君!と声を上げ、廊下に出た彼の腕を掴んだのだ。


「亮君は組の長屋に戻るの?」

『……と、言いますと?』

「私ね兵助君と勘ちゃんに用事が有るんだ。だから長屋迄案内して!!」

『案内?』


ね!どう思う数馬君藤内君!
亮君の腕に抱き付いたままの美那ちゃんは、俺達2人へと同意を求めてきた。
よく考えれば彼女は迷って此処まできてしまったのだ。亮君が長屋に戻るのならば一緒に付いて行った方が良いだろう。

それに廊下の至る所には上級生達が仕掛けた罠が在ったりする。亮君ならばそれを見破り回避しながら、怪我せずに美那ちゃんを送り届けるに違いない。

それは隣にいた数馬も同意見であり、俺達2人が頷けば彼女はやった!と更に亮君へとしがみついた。


「それじゃ亮君、五年生長屋へ行きましょう!」


美那ちゃんは亮君の腕を掴んだまま、廊下の向こう側へと歩き去ってしまった。亮君も引っ張られながらもその場から立ち去った。


「良いな亮君」

「何が?」

「美那ちゃんと一緒な事。やっぱり、美那ちゃんは五年生が良いのかな?」

「………」


最近の美那ちゃんはよく五年生と一緒にいる時間が多い。
勿論俺達だって美那ちゃんとお話したくて、彼女の元へと駆けつけるも既に四年生や後輩達が居る。
忍者の能力的に言えば彼らの方が経験は多く、後輩の様な無邪気さは無く冷めて起きながら皆冷静な人達が上級生だ。きっと美那ちゃんはそんな人に憧れているのだろう。

歳の差。

こればかりは俺達はどうしようも出来ない。

それでも美那ちゃんと一緒に居たいと願う俺は、先輩の様な格好良い姿を目指す為に予習を始めた。














110409


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