方程式の惨(さん) | ナノ


□接触>


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「いたいた!亮!」


広い背中の私の前を歩いていた八君の隙間、忍たまキャラの中では聞き慣れない名前を彼は呼ぶ。
そして、いきなり走り出したその背中はだんだんと小さくなり、同時に呼ばれた存在が私の視界へと写り込む。




接触>干渉>侵蝕>捕食>土の中




八君が駆け寄って行ったのは彼らと同じ五年生で、目立つその様相からあの時に見た彼だと分かった。
背が高く、スラリと伸びた手足の細さはまるで外国のモデルの様。スタイルも良いのか腰が細くて女の私でさえ、羨ましいと思ってしまう位である。薄桜色なんて女の子みたいな色合いなのに、細いその体系と上手く調合されているのか違和感と言えるものを全く感じられない。

振り向いた彼は八君といくらか言葉を交わして、直ぐに私へとその顔が下がる。

「(前髪で見えないじゃん)」

顔の半分を隠している彼、彼は私を見るなりふわりと柔らかい笑みを浮かべてははじめまして、と緩やかに紡ぐ。
男性にしては高く、でもだからって女性みたいな艶やかさは感じない。中性的な声帯は彼を女か男かを見事に惑わさせる。
そして彼の背中から顔を覗かせるのは、細い棒。
あの形は……三味線だと思う。


「亮、紹介するぜ。この子は美那。なんとなんと、未来から来た天女様だ!」

「もう八君ったら!未来からは合ってるけど、天女様じゃないと何度言ったらわかるの!」

「だって美那みたいな可愛い女の子が普通な子な訳ないだろ?!
美那、この背が高い奴が五年生は組の……」

『摩利支天です』

「私は美那です!未来の平成って言う世界から来たの」

宜しくね!亮君!

可愛らしく語尾にハートが付く感じで首を少し傾げる。
目を細くしてにっこり笑って見せれば、大半の忍たまはコロリと落ちるものを私は知っている。そんな私の意図も知らず、亮君は口元に笑みを浮かべるだけ。うん、この子凄く落ち着いた雰囲気だし、きっと兵助君達と同じ部類の忍たまなんだと思う。そんな彼があの無邪気な彼らの一員だと思うと不思議でならない。
何でい組じゃないんだろ?
こんなに目立つ格好して居るんだから、レギュラーキャラとして出て来ても良いのに…。それにスタイルも良いし礼儀正しいからキャラとしては立ってるんじゃないのかな?


「そうだ!亮に聞きたい事が有って!」

『僕に…ですか?』

「(一人称が僕って!!亮君も雷蔵君みたいに可愛い!!)」

「お前達は組が演習から戻って来たって聞いてさ、美那がは組に挨拶したくて食堂で一緒に待てたんだぜ?」

『……食堂で?』

「昼休み前に雷蔵と三郎がは組が戻って来るのを見たんだ。だから昼飯食いに食堂へ来るんじゃないかと話をしていて……」

でも、お前等は組と来たら一向に来る様子が無いんだ。だから俺が美那をは組の連中が居る場所迄案内しようと……。

つらつらと私の変わりに言ってくれる。

そう。どれだけ食堂では組のみんなを待っても全然来なくて、痺れを切らした八君が他の4人を差し置いて私を連れ出してくれた。
きっとアイツ等なら教室でへばっているだろう。って……。


「それで、何では組は食堂に来なかったんだ?」

『演習中に使用する忍者食が余っていたらしく、それを皆さんで上手く調理し食べよう。となった様です』

「忍者食って…おいおい。あんな不味いもんを食べようってお前等……それで亮は良いのか?」

『胃に物を入れてしまえば何を食べようと、さほど変わりは無いですよ』

忍者食って、確か虫とかの事じゃなかったけ?
アニメで見たあんな物をは組のみんなが食べてるなんて!
食に対してこだわりが無いのかしら?でも、ほんわかは組だなんて呼ばれてる位なんだから、味覚音痴とかちょっとズレていても可愛い範囲だと思える。


「で、は組の奴等はどこに居るんだ?」

『……知りません』

「え?」

「知りませんって……」

『僕は途中で先生に呼ばれたので、皆さんがどこに行ったか等とは把握しておりません』

「でもお前、さっき忍者食がって……」

『学園に付いて直ぐにそう言った話をしていたのを聞いていただけです。竹谷さんのお話からして皆さんがその後食堂に向かっては居ないと言うのは確信しましたが……』

「何だよ!それじゃ、無駄足だったのかよ」


ごめんな美那。勝手に連れ出した結果がこれで。

まるで頭に犬の尻尾でも生えて居るんじゃないかと思える位に、落ち込む八君に大丈夫だよ!と笑って見せるも、内心舌打ち物だ。

タイミングが悪かったか……。
そう考えていると、ふと視線を感じた私は視線を上げた先で亮君の姿を捉える。
彼はあいかわらずニコニコしていて、厚い前髪のせいでどんな目をしているのかが分からない。それは、何を見ているのかはっきりとしない不安感を感じさせる。





『……あなたは』

「え?!何?亮君!?」

『とても面白い方ですね』



またにこりと笑う。
面白い?私が?可愛いの間違いじゃない?
なんて思うも、そっか……彼、ほんわかは組の一人だったけ?だから頭足らずな所が有るんだ。きっと。


「えっと……私が、面白い?」

『ええ』

「例えば、どんな所?」

「此処に居たか」

「「!!?」」


いきなり後ろから上がった声に私は驚いた。どうやら隣にいる八君も同様らしく、2人一緒に肩を揺らして後ろを振り向いた。
でも、其処には誰も居らず、あれ?聞き間違い?なんて首を傾げれば隣の八君が脅かすなよ!と怒鳴り声を上げた。


「いきなり出て来るなよ!」

「あんた馬鹿じゃない?忍の卵、しかもその五年生が一人の気配を読み取れないなんてさ」

「っお前な!」

「亮、行くぞ」

「あっ!」


いつの間にか亮君の隣にいた見慣れない彼は、私に顔を見せる事なく直ぐに振り向く。そして亮君の手を取っては、走り出した。
五年生の制服、しかも亮君の手を引いていると言う事は、彼は五年は組の生徒の一人。

顔は見えなかったけど、やっと2人目!と浮き上がる私は「ねぇ、待って!私あなたとお話を……」と言いかけた所で「興味無いよ」とピシャリと切られてしまった。
そして忍者らしく、シュッと姿を消した2人は其処には居なく、私と八君の2人だけが残された。














「(興味無いですって……天女様補正がついた。この私に?)」















110323
拍手にて。


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