方程式の惨(さん) | ナノ


□腸と


2ページ/10ページ

初めてみた。
漫画やアニメの中じゃ存在しているかも分からないそれが、私の視界へと入り込んで来た。

五年生の装束を着ているのに凄く泥だらけであちこちに切り傷を負った集団が、向かいの校舎へと繋がる渡廊下を歩いていたのだ。



見せぬ腸と、狩人の習慣



この世界にトリップしてまだ3日目だけど、忍たまの世界を知り尽くした私には知らないものなんて何もないに近かった。
それこそ、学園内の部屋の配置は設定資料集を買い記憶し上級生達が初めて登場した第四期などと言う古い映像まで見ていた位だ。
初めてこの学園に降ってきた時はみんなに警戒されたけど、私が願っていた補正が本当にかかっていたらしく2、3回程会話を交わした程度でみんな直ぐに私に優しくなったのだ。
こう言った場合に影主人公や愛されキャラと言う隠れた中心核が存在し、此処最近天女だと呼ばれる様になった私を傍観又は討とうとする見えない者が居たりする。
だけど、モブキャラである忍たまやくの玉達とも上手く行っている為に、その存在がいない事に安堵したのは此処だけのお話。

本当は忍たまの一年生から六年生のみんなを贔屓にしたい所だけど、近寄って来ては未来のお話を聞きたがるくの玉を邪険には出来ない。
何せそれは、私を殺そうとする思念や憎しみを生み出す現況となるのだから。
だから平等に接しづつ忍たまを贔屓しながら、私は毎日を迎えている。

私の仕事は門前の掃除に廊下の水拭き掛け、そして食堂のメニュー注目を受付ては運ぶ簡単な仕事。

門前の掃除なんてただ砂を集めるだけで直ぐに終わるし、水拭きだって誰かしらがやって来ては「天女様に水拭きなんてさせない!」と奪い取って勝手に片付けくれる始末。
食堂のメニューも殆どが在り来たりだから、テレビアニメを見た私にはレパートリーを1から覚える意味は無い。

休み時間に成れば我先にと六年生と五年生が遣ってくる。
俺達が先だとか先輩に譲るのが後輩のなんたらで、決着が付かない間に私は脇から潜り込んだ四年生に連れられ安全地帯へ。それが日によって下級生達と言う違いだけ。

勿論この世界は楽しいし、念願の夢のまた夢である逆ハーの幸せな世界。いくら補正があるとは言え私に敵意が向かない様に表情と言葉のコントロールをして居れば、私はこの学園内では絶対安全であり殺される事など決してない。


だから今日も、昼休みの間に取る昼食でメニューの受付注文と言う簡単な仕事をこなす為に離れの渡廊下を歩いていたの。

そう、そして冒頭に戻るのだ。


「………なに?あの子達」


遠目でも分かりやすい位に汚れた制服は不衛生で、きったな……と無意識に出た言葉を掌で押さえ込み辺りを見回しとりあえず安堵。
そして逃がすまいと再び注がれた視線の先に居た集団は、兵助君達と同じ五年生の制服である事が分かった。

「あれ、全部が五年生?」

あんなに人数が居る五年生なんて、私はちっとも知らない。数は一年は組の人数に近く一人一人が忍たまのレギュラーキャラの様に強い特徴を持っている。
そんな中で一番に一目を引きつけるのは頭一つ分飛び出た、背丈の高い五年生だ。背中に三味線かな?何かを背負い数馬君みたいに目立つ色合いな髪の毛を靡かせている。
髪型も変わっていて結われた髪の毛の頭部部分はモサっとしているのに、其処から伸びる二本の長い毛はまるで動物の尻尾を真似るかの様に揺れる。

着ている制服も五年生だし、六年生って訳でもなさそう。
そんな頭一つ分大きい彼に肩へと腕を回し、何やら話す五年生。よくよく見ればレギュラーキャラ達に負けない位のイケメン。
否、彼だけじゃない。目を凝らせばハッキリと瞳に写り込む生徒達の中には、同じ五年生である八君達にも負けない位のイケメン揃いに私の胸は期待に膨れる。

嘘嘘嘘!何なの?!あの隠れた原石達は?!
しかも、五年生の癖に無邪気とかめちゃくちゃ可愛いんですけど!!

上級生には無い無邪気な雰囲気がその集団にはあって、私の視線はずっと釘付け状態。

そんな中、三味線を背負った子と腕を回していた子の2人がふと、足を止めた。
何だろうと眺めてる中に先ほど集団が来たばかりの廊下から、背の低い五年生が走り寄ってきている。

彼は肩を揺らし2人へと言葉を紡げば、それにイケメンが反応。そして背の低い五年生と一緒に三味線の子の手を取れば、三味線の彼は2人に引っ張られる形で走りだした。

最後尾を歩いていた3人が渡廊下の向こう側に消えた事で、その廊下には人の影一つも存在しなくなった。










「あれは………五年生……だよね?」

「そう、五年は組さ」

びっくりした私は直ぐ隣から上がった声に視線を這わせれば、其処には身を乗り出す三郎君と雷蔵君の姿が瞳に写り込んだ。


「え?え?は組?……五年は組って」

「五年生になっておきながらほんわかは組って言われてる位の、可笑しな集団さ」

「こら三郎。
ごめんね美那ちゃん。彼らは忍者には向いてないと言われてる位優しい気質の持ち主達でね、相手を気遣ったり傷付けるのを嫌う不思議な五年生なんだ。」

「え?!それって、忍者として不味いんじゃ……」

「そ。だから実技や演習でクラスみんな揃って赤点引いてる事で学園内では有名な話さ」

「(やだ何それ可愛い!!)」

「は組のみんなは優しいから。それのせいでほんわかって言われてるんだよ」



上手い具合に交差される2人の会話を耳にしながら、私はへー。と今は誰も居ない渡廊下へと再び視線を向かわせる。



ほんわか五年は組。

もしかしたらその内アニメや原作にも出て来るかも知れないキャラクター達。
あんなに個性的な子達。そして無邪気な五年生とか本当にレア過ぎる!


「廊下が汚いって事はアイツ等演習でもボロボロだったみたいだな」

「あの様子じゃ、着替えから食堂に来るよね」

「え!!あの子達食堂に来るの?!」

「まぁ、昼休みに戻って来たって事は飯を食べに一旦戻りに来たんだろう」

「わっ私、あの子達に挨拶したいな!」

「そういえば美那ちゃんが来た時にはは組の皆は演習に向かっていたから、挨拶出来なかったよね」


食堂に居れば嫌でも合うから大丈夫だよ。

そう笑う雷蔵君は本当に癒やし過ぎて、私も一緒に釣られて笑ってみせる。
すると、右手を三郎君に左手を雷蔵君に触れられた私は、赤く頬を染めてみる。



「行こか美那……私は腹が空いた」

「僕もだよ美那ちゃん。ほら、3人で一緒に行こう」

「うん!」










私は双忍に手を引かれ、食堂へと向かった。























110319
拍手にて。一部修正文有り。


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -