方程式の惨(さん) | ナノ


□蟒蛇


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不思議な不思議なお話。
それは数え切れない人間の中から、外壁へとこぼれ落ちた一人の少女のお話。



我が頭角で蟒蛇を刺そうぞ


少女は夢を見ていた。睡眠を取る際に見る夢では無く、非現実的なその両手で掴む事すら出来ない夢を見ていた。

三次元と称される自身が生きる世界。少女は紙や液晶画面の向こうに息づく存在に夢を見た。
夢は二次元と呼ばれ三次元の人間が行き来が出来ない空間、世界。この二次元に行きたいと願う存在もまた数多く存在し、向かう為だと神社やお寺でのお参りや扉を開けたり閉めたり、中には車に跳ねられてしまえば行けるかも知れないなんて思う者も居た。

そんな三次元の世界の中、人は生まれ同時に死んで行く。そう言った自然界のサイクルにより構成されて居た空間から、一人の少女が弾き出された。
偶然による外壁への飛脚。
少女は死んだ。
少女の死は必然ではなく、偶然だった。

自身がどれだけ気を付けた所で他人が気を引き締めて居なければ、そもそも事故なんて起きやしない。そう、少女は赤の他人のうっかりによって殺された。
歩道に設けられた柵でも走る自動車がスピードを上げ、突っ込んで来た所で完璧に止められる訳が無い。運転手の余所見運転。柵に乗り上げた先に居た一人の少女は事故に巻き込まれ即死した。
生者から死者へと移り変わった少女は、新たなサイクルへ取り込まれる流れの中で三次元の世界からこぼれ落ちた。
例えるならば、流れるベルトコンベヤーから一つだけ落ちた様なもの。

サイクルの途中でこぼれ落ちる事なんてよくある話だ。落ちた人間の魂は生前の記憶が強く残り悪影響を及ぼし生まれ変わった際、異分子と言う名で存在し続ける。
犯罪者、テロリスト、過激な人間。つまりは人間社会では生きづらい存在に変わる。
こぼれ落ちるなんてよくある事。だが、少女が弾き出された事は偶然では無かった。それは、自身が死んだ事を認める事はせず、サイクルの途中で強い意識に寄って弾き出されたのだ。勿論驚く存在は居た。

少女はこぼれ落ちながら言った。
「私はまだ死ねない」と。
相手は問いた。
「何故?」
生前時に恋人でも居たか?家族に伝えなきゃいけない事でも有るのか?色々と少女へと問うも、少女は全ての質問に首を横に振るだけ。
「違う!落乱の世界にまだ言っていない!」
相手は脱力した。ああ、またあのケースと同じか。と。二次元へ向かうが為と自殺した存在は此処最近になって増えている。やれあのキャラクター達と戯れたい、やれ好きなキャラの恋人に成るんだ、姉弟でも構わない、何なら成り代わりとかどう?!と馬鹿げた事を言ってくる存在が急増している。
少女の様な年齢層、中学生、高校生が多い。勿論中には男性だって居る。「俺の嫁に会いに行く」だと低脳な事を言っていたがまぁ無視だ。

つまり、こぼれ落ちる少女も過去のあれらと同類と言う訳。

くだらない。さっさとサイクルに戻すか。そう腕を伸ばした時だった。
刹那、彼女は更に深い底へと落ちて行った。
深い深い底。それは彼女が望んだ世界。
不味いと息を呑んだそれはすぐさま指先に力を込めた時に、横から自身の手を止める。何だ!と見やれば、相手は静かに紡ぐ「仏の顔も三度まで」と。
意味が分からないまま、後を追う形で落ちてゆく同僚をそれは見送るしか無かった。
其処で世界は移り変わった事を少女は知らない。


パチパチと小さな火花を上げる場所は学園内のごみ棄て場。大破した器具や体力の紙を処分する時などに使用される場所だ。
その一角に設けられた深い穴。
其処から上がる煙を眺めながら近くの瓦礫に座る五年生、亮が居た。
亮は三味線の胴部分に着いた血を綺麗に拭き取って居る姿を捉える。足を組みその上に胴を置く。口に布を噛んだまま、厚い前髪腰に厳しい目つきで三味線を写し出す。
伸びた弦部分を指先で弾き、その感覚に目を細めた。
噛んでいた布を右手で持ち替え、棹部分へと当ててる。


『彼女の介入により学園内が変わるか、変わらないかは皆さん次第ですからね?僕がどうこうしようとは思いませんし、そもそも出来ません』

誰に向かってなのか?周りを見回すも、人影所か気配すら無い。だが、亮の言葉に応えるかの様に風が吹き、木々がザワリと葉を鳴らした。

『しかし、面白い事もあるのですね。
以前先輩方に聞いた南蛮の話。それを自身が目の当たりにするとは……』

良い土産話が出来ました。

にこりと笑った亮がふと取り出したそれ、小さな長方形。色は薄い銀色で、高く登る日差しを反射させる。
親指で押しのける形で開いた長方形は更に長さを延ばし、開かれた事に寄って灯された光にフフ、と亮は笑った。


『飢える事は無く、学業一つに取り組め、医療が進み、身の安全が保証された未来の世界』

そう、未来、の、世界


座っていた亮は、持っていた三味線を持ち直し静かに立ち上がる。そしていまだに火花を散らす穴へと近くなり、底を見下ろせる位置にしゃがみこんだ。


『貴方の言う未来が、この世界の未来と繋がって居る訳では無い』

未来から来た?
フフ、天女様は本当に面白い方ですね。

『貴方みたいな意味の分からない物質で構成されているのが人間な訳ない。
貴方みたいな死臭を漂わせるのが未来の人間ですか?

フフ…

違いますよね?』








だって、

僕が聞いて居る未来の人間と貴方は違うのですから。

クスクスと口元を指先で隠しながら笑う亮は、持っている布と長方形のそれを穴の真上からゆっくりと離した。
重量に逆らえない布は左右に揺らめきながら落下、だが地面に付く前にパチパチと燃える何かに触れた途端に火が燃え移り、長方形のそれはボトリと鈍い音を鳴らした。




『鼻は聞かずとも、死臭は分かるんですよ天女様』



さて、と……。

手を数回程叩いた亮は立ち上がり、校舎の方へと視線を向けた。すると、此方へと走り寄ってくる姿を長細い視界越しに捉えた。

相手は2人でそれがろ組の双忍だと理解すれば、亮は小さく笑みを浮かべパタパタと手を振った。
走り寄って来た2人は亮の直ぐ近くに寄ってくるなり、腕を掴み始める。そして何やら制服に鼻を寄せ2人一緒にクンと嗅ぎ出せば誰でも驚くものだ。


『どうかされましたか?』

「ああ、実は学園の制服の大半が死臭臭くてちょっと騒ぎになってるんだ」

「もしかして、亮君も?と思ったけど……」

そうじゃないみたいだな。と、安心したのか、双忍は同時に亮の腕を離した。
それに対しそうでしたか。それは知りませんでした。としか返さない。
だが、ふと雷蔵が小さく首を傾げる仕草に、亮も釣られるかの様に一緒に首を傾げた。


「亮君、こんな所で何をしてたんだい?」

キョロキョロと周りを見回す雷蔵、場所は変わらずのごみ棄て場。こんな所に用が有るなんて、滅多に無い筈だ。
それに亮はクスクスとまた笑う。



『フフ、汚物を消毒していたんです』

「汚物?何言ってんだお前?」


訳分からん。と呆れた三郎と理解出来ない雷蔵だが、風がザワっと吹き出した事である匂いが2人の思考を一気にかっさらって行った。


「そうだ亮君!食堂に行こう!」

『食堂に?』

「は組の奴らがお前の帰りが遅いから探して来いだとさ。よく分からないがそれでチャラにするんだと」

何をチャラにするだよ?俺らは組に何かした覚えは無いんだが……。分からないが気に入らないと言った様子で三郎は頭を掻くが、すぐさま亮へと向き直り私達も一緒に飯を食って良いんだとさ。だから亮!

三郎は亮の右手を掴み、続ける様に雷蔵が左手を取った。


「ほら食堂に向かうぞ。飯を食いっぱぐれる」












走り出した2人に引っ張られた亮、3人一緒に食堂へと走る姿に再び木々が揺らめいた。
二次元の世界の中には無数の世界観が存在する。一つ一つの世界が生まれるきっかけなんて簡単だ。それはそう言った世界観を想像した事から世界は生まれる。こんな設定であんなキャラクターが存在。詳しい設定やキャラクター構成が生まれる度にその世界は広がり一つの星として生まれる。つまり元となるのだ。
だが、その元となる世界に向かいたいと願うのが三次元の人間達だ。しかし行ける筈が無いのが三次元の現実。
ではどうする?
元となる二次元の設定を利用した、新たな世界の中で彼らは夢を見るしか無い。小説と呼ばれたり絵と呼ばれる世界の中。
それこそ人間の数並みに数え切れない個人が生んだ世界。その中に少女は居るなんて思いもしなかっただろ。
落乱の世界。では無く、夢小説の世界。と言う事に…………。

仏の顔も三度まで。

何故か溶けて行く自身の体を眺め、耳元で囁かれる言葉に少女は目を瞑った。


少女は思い出した。
頂と会話する以前に起きた自身の身の真実を。
少女は知らなかった。
自身に死臭が漂っている事を。
少女は知った。
自身は死んだままの人間なのだと。
少女は理解した。
何故は組が自身を無視していたのか。
五年は組はそもそも見えなかった。
天女様と呼ばれる死人の姿を。
は組の生徒、亮とその手を引き姿を消した一人の生徒以外は……。















???と鹿
(死人女と鹿)


















110504












プチ解説

禍津日の話しにてトリップ主がは組に「触れた瞬間に〜」の場面は死者であるトリップ主が見えなかったは組の結界。と捉えて頂ければ幸いです。死者と化していたトリップ主は幽霊に違い存在。同時にクラスメートのは組は部外者の存在が眼中に無いので、レギュラーキャラ及び他人に興味が一切無い。
それらにより、あやふやな存在のトリップ主が完全に見えなかった。
2話に登場したモブキャラは辛うじて他の存在へと目を見やるが為、天女様が見えてしまう。しかし、は組クオリティにより天女様眼中に無し状態。
昔の匂い〜の話しで、三郎の記憶があいまいに成って行くのは、同時期に夢主がトリップ主を始末してゆく様を描いています。消えて行くにつれ記憶が薄れて行き、絶えた瞬間に天女様と絡んでいた記憶が全て消失。一切覚えていない。
と言う訳でした。
分かりずらい解説でした。


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