□画面に
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「ふざけてるのか?!」
怒鳴り声が上がる。
自身のすぐ真正面から。同時にその後ろで待機している数人の同級生達の殺気が、一直線に自身へと真っ直ぐ当てられるのだから溜め息しか出ない。
昔の匂いを画面に埋めた
食堂へと殴り込んだ形で入ってきた彼、八左ヱ門は入り口近くに居たは組のムードメーカーの胸倉を掴んだのだ。勿論、食事を用意していたは組生徒達は何事だと、大変だ!と駆けつけ集まって来た。胸倉を掴まれた彼は分からないと言った表情で目を点にし、目の前で体から殺気を滲み出すろ組の同級生を眺めるしか無かった。
「ほんわかは組とか、相手を傷付けるのが苦手な奴なんて言われている癖に、よくも非力な一般人にっ……」
「……は?お前何言ってんだ?」
「いくら亮がてめぇらの仲間入りしたからって、他の奴を省く様な手を……」
一方通行な八左ヱ門の台詞。勝手にギャンギャンと野良犬の様にひたすら吠え続ける姿に、彼は眉間にピクリと青筋立たせ自身の胸倉を掴むその手首を掴む。そして思いっきり力を込めれば、八左ヱ門は鈍い悲鳴を上げ直ぐに胸倉から引いた。
「あ〜あ。せっかく演習授業上がりに亮が直してくれたのにさ、また制服がグシャグシャじゃないか……」
全く、余計な事しやがって……。
制服を直しながらギロリと殴り込んで来た八左ヱ門を睨むも、どうやら相手は殺気立っているらしく此方の睨みが効きはしないらしい。否、相手達か……。
「揃いも揃って、何だその殺気は?五年生ともあろう存在が、殺気のしまい方も知らないのか?」
ハッ!と鼻で笑った彼の台詞に、こんのぉ!と拳を作り上げた八左ヱ門を取り押さえた雷蔵。
しかし、抑えきれないらしく、大きく暴れているのが明らかだ。
暴れるしかない八左ヱ門。此では話にならないと、三郎と兵助の2人が前へと出るや嫌な、懐から手裏剣とクナイそれぞれ一つ抜き出し目の前の存在へと投げつけた。
至近距離からの攻撃に目を見開く彼だが、何事もなく元のサイズへと戻されれば鼻の先で火花が散り共に床へと影が散っていく。
落ちた数は4つ。兵助と三郎の手裏剣とクナイ。そして八方手裏剣2つ。それらの2つが一体どこから飛んできたのか?彼の後ろで構えを解き終えた2人の生徒の様子に答えは導き出されるだろう。
は組の癖に……。内心舌打ちする三郎だが、堂々とする彼に負けてはいけないと、気を張り巡らせる。
「お前らは亮が加わっただけで良いのかよ?」
「あ?まぁそうだな。お前らと見知らぬ亮のどちらしか仲間に加えられないと言われれば、直ぐに亮を選ぶな?」
「他の奴ならいらないと?」
「そうだ。は組の仲間入りには俺達の目と意志で見て決めて入れる。いくら先生が決めたや先輩方ましてやお前らが言った所で認めもさない」
は組の仲間意識は見ていて微笑ましいものだが、逆に裏を返せば依存性が強いと言う事だ。
酷く絡まる輪と言う糸に新たな存在を招き入れるのは、此奴等の意識次第。結束が強く綻びなんて存在しない。それに含まれた亮の存在。
年下と言う事もあるだろうがだからと言って、美那を弾く理由が分からない。
私達が美那を独占していたせいか?しかし、美那がこの学園に来た時は組連中は不在。演習で出掛け居り美那にちゃんと会っては居ない。
部外者だから?しかし、美那は私達の様な忍の卵では無い。一般人より力が無いのだ。忍たまである以上、一般人に手を出してはいけない、騒動を起こしてもならない。それに当てはまるのが美那だ。だから必然的に私達忍たまは彼女に手を出してはいけない。むしろ、手を出した生徒は退学せざる終えなくなる場合だってある。先生方は一体何をしているのか?そんな怒りがこみ上げてくる。
「美那が泣いて居たんだ」
隣にいた兵助が呟いた。その目は相変わらず厳しく目の前の存在へと睨みを利かせる。
「美那は忍たまでもくの玉でも無い。普通の女の子だ。手を出す事は学園の決まりで許されて居ない」
それを分かって居て手を出したのか?
シンと静まり返った食堂内で兵助の紡がれた言葉が浸透する。
ビリビリとした空気がこの場に流れ、包み込む。肌に走る微量の静電気は殺気で起きるものだった。
ハァ…と、こぼれ落ちのは溜め息。吐いたのは目の前の男、八左ヱ門が掴み掛かったは組のムードメーカー野郎だ。そいつは自身についた汚れを払うかの様に制服を叩く。
「お前等さ、亮の事言ってるのか?」
「………は?」
「確かに亮は俺達の仲間だが、別には組の私物やものだ。なんて思っちゃいねーよ。亮だって一人の人間だしあいつの意見や思いを無視しようとは考えて居ない。あいつがどんな奴と友達に成ろうが自身が決めた事だ。俺達が何を言う権利は無い。
それに別に俺達は組が亮を独占しているみたいな口振りだが、お前等の方が俺達より独占しているんだぞ!まぁ、それは置いて置き、お前等何ちゅー臭いを漂わせてるんだ……くせぇからさっさと……」
「ちょ…ちょっと待ってよ!」
「何だよ?」
「僕達は美那ちゃんの事を言いに来たんだよ。亮君の事は………」
割り込む形で雷蔵が私達の間へと入ってきた。しかし向かいのこいつは何を言っているんだ?と言う顔付き。何故そうなるのか?むしろ私達の方が分からなくなる。
ざわめきがは組に生まれた。
「美那ちゃん?そんな奴くの玉に居たっけ?」
上げられた一言。
同時にグニャリと歪んだ視界。遠くで鳴り響いた誰かの声が墨によって、乱暴に塗りつぶされる様な感じが脳内を襲う。
美那?
平成と言う未来の世界から来た女の子。
高校生で戦が無い平和な世界から来た女の子。
綺麗な顔付きでクナイすら持った事の無い華麗で保護欲を沸き立たせる女の子。
女の子?
どうやって学園に来た?
何故私達忍たまを知って居る?
沸き立つ疑問が浮かんで行く。しかし、それらを打ち消すかの様に次々と墨に飲まれて行く。
美那?
そ い つ は
誰 だ ?
了
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