謳えない鹿 | ナノ



二人と楽しい会話を交わした所で、そろそろ授業開始の鐘が鳴るとの事で席を立てば一人の先生に声を掛けられる。

またね!と教室へと戻って行く富松と三反田の2人に亮は手を振った。
後にお待たせしました。と一礼すれば、先生は感心した様にうんうんと頷きながら歩を進めた。


先生は歩きながら亮へと様々な事を1日の流れを説明する。しかし、先に三反田や富松からお話は聞いてます。と言えば、説明する手間が省けて助かると笑った。


「摩利支天が入るクラスは、は組だ」

『は組、ですか』

「この学園は、生徒の成績順でクラスが変わる。い組は成績優秀でろ組はその中間、は組はその下だ」

『つまり、頭足らずなクラスと言う事ですね』

「お前が言うと嫌みに聞こえるな?」

『違いましたか?』

間違えてはいないが、と言いながら先生はまた笑う。

「お前の成績の話は聞いている」

本来ならばい組へと編入する筈の成績では有るが、実技などの実習を主に前の学園で学んでいたみたいだから、筆記類とのバランスを考えればかなり偏りがちだろう。と、前を歩く先生の言葉に彼はそうですかと答えた。

実際の話その通りである。
実践に実技の実習、兵法は実際に目の前で学び密書の暗号すらさえ、どこぞの見ず知らずの忍者から奪い取っては自力で解読していく様な事ばかり。
手に筆を持ち紙へと書き記すなんて勉強は、あの学園では今の今まで一度たりとも無い。その分やはり座学にはムラが出来るのは明らか。現にそのせいで亮は文字の読み書きが苦手である。
いくら奪い取った密書や書状が暗号化されていても、あくまでそれは「暗号の文字」で「一般的の文字」では無い。

知識や経験を積んでも、それを相手に伝える手段の一つである「読み書き」する事。
これが出来なければ暗号する筈の文字も、まだ知らぬ、文字の中に埋もれた新たな兵法と言う名の知識を読む事すら出来ない。


『(模写する事は得意なんですけどね…)』


やはり、少しは本を読み漁る癖をつけて置けば良かったと、後悔しながらも自身がは組に入る理由が同時に理解出来る。

文武両道とは言えない酷く偏った己の力を、なんとしても平等に釣り合わせないといけない。
その為のは組だろう。

一体、は組とはどんな人の集まりだろうか?
未だに、想像が出来やしない。

遠くであの鐘が鳴った。

同時に、シンと静まるその場所、そこが廊下なのだと理解した所で先を進んでいた先生の足がやっと止まった。

すると、どこからともなく取り出した一冊の本を、彼へと渡せば亮は首を傾げながら受ける。

「摩利支天の忍たまの友だ、この先の授業では必ずそれを持ってくる様に」

『はい』

「では、声をかけるから此処で待って居なさい」

先生は戸を開けてはすぐさま教室の中へと、その姿を消して行った。

同時にシンと静まるが先生の一言二言の台詞が述べられれば、同時に中からザワザワとした賑わいのある声があがった。

一方の亮は背負う荷物の紐を抱え直し、忍たまの友と呼ばれた本を軽く捲る。

ツラツラと綴られる文字は誰でも分かる内容なのだろうが、亮にして見ればだだの動かないミミズである。どのページをめくるが中は変わらず、時折描かれる挿し絵から察すれば大方の内容は理解出来る。
先のページへと進む中で、亮の眉がピクリと動きめくる速度が一気に落ちる。

『………』

すると、扉の向こう側から入りなさい。と先生の一言を拾った亮は、忍たまの友を閉じては再び荷物を背負い直す。
入る前に失礼します。と断りを入れては扉を開けた。






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