謳えない鹿 | ナノ



散り散りに散った私達はそれぞれの相手となる五年生を見つけるべく、校舎内へと向かった。

こういった場合に、相手は一体どこに隠れるか?昔に習った授業内容が私の脳裏をよぎり、其処へと向かっては中を覗くも人の気配は全く感じられない。
やっぱり今年の五年生は優秀らしい。稀に五年生を相手にした実習が行われるが、なかなかに手ごわかったりする時がある。相手にもよるが私だって偶に一本取られる時ぐらいだ。
今回の再試験のことを考えれば、そう簡単には相手を捕まえることは出来ないだろう。

屋根裏から降りた私は教室内を見渡せど、人一人すら居ない。
場所は私達六年生の教室。昔の授業では相手から逃げ隠れる際は、敢えて相手の懐に身を潜めるのが効果的だと言われている。
この教室に来る前にも、私は一応自身の部屋にも向かい探りを入れたが、残念ながら外れ。
そうなれば、相手は一体どこに隠れるて居るのかとなる。廊下の下でも無ければ校舎の屋根にも居ない。

もはや万事休すと思えないこの状況。
だが、この学園には様々な隠し通路に絡繰り部屋、数え切れない位の隠された何かが存在する。勿論、その中には私達が作った絡繰りもあるが何より以前この学園で学んでは卒業して行った先輩方が残していた物が多いのだ。

一見ただの壁と思いきや、襖の閉め方一つで絡繰りが動き隠し扉が出てきたりする。それを知っているのは、それを作った本人のそばにいた友人或いは後輩と限定されていく。
私も先輩方からあそこには絡繰り部屋がある。隠し通路がある。とは聞いていたが、敢えて見に行こうとはしなかった。
まぁ、八割方巻き込まれるのが目に見えていたから。


私は人気の無い廊下を歩き周りの気配を探る。
所々に感じるそれは学園内を探しては走り回る六年のものだ。
私達だって、今回のこの試験を落とすまいとやけになって居る。二度も同じ失敗をしたくはない。勿論、私も。

私の相手は五年ろ組の竹谷八左ヱ門。
生物委員会委員長代理であり、後輩や動物達を大切にする優しさ五年生である。しかし、動物を相手にした委員会を五年も勤めているせいか、体付きはよいし反射神経がどの五年生よりも高く、小平太の様に勘が鋭い。
正に野生の勘を持ち合わせている。
竹谷ともう一人、一体誰が組んで居るのかは分からないものの、きっとその子は竹谷が捕縛されない様にサポートをしてくるに違いない。


「(…………)」


どうやって探し出し、奴を捕縛するか。

そう簡単には出て来てはくれないだろう。もしかしたら隠し部屋に息を潜めているか、分刻みにあちらこちらを移動して身を潜めているかも知れない。

どんどんと湧き上がる考えに、頭がいっぱいいっぱいに成りそうになる。
忍者の卵とは言え、五年も学んでいるその知識と能力は嘘偽りは無いだろう。

一番、厄介な相手はそういった年齢の子である。

ある程度の知識と実績を積んでいるも、一年上の六年生である私達には適わない所もある。
しかし中には急激な成長により様々なアイデアや発想を思い付き、私達をあっと言わせる存在だって居るのだ。

それは、その年齢でしか考えれないたった一年と言う違いの若さによるモノ。一年だけ年上の私達にはもはや思いつく事の出来ない発想力の差だ。

だから、相手となる五年生は時折、プロの忍者より手強い事になる。



「(考えていても仕方ないか)」


そろそろ、私も隠し部屋等と言った場所を探り回らないといけない。
懐に入れている忍具を確認し、ちゃんと使える事を確かめる。
奇襲攻撃を受けて、万が一に気絶でもされたら適わないからね。


私は廊下を進み、渡り廊下へと向かおうとした時だった。


クスクスと笑い声が上がった。



「?」



何だろう?と気になった時には私の足は自然と止まり、その場でピタリと停止した。

庭へと視線を向けるも六年は組の誰かが音を立てる事なく、目の前をよぎった位でこれと言った存在は見当たらない。

気のせいかな?
なんて、止まっていた足を進めようとしたが、再びその声が私の耳へと届いた事に、確信へと変わった。

声の質からして、男の様な太いものでは無い。
どこか澄んで居ては透明感を感じる何かかは、鳥の囀りを連想させられる。
高すぎずに低過ぎない丁度よい声は、聞いているだけで胸の中で暖かな安らぎを抱く感覚に近い。

聞き慣れない声と言う囁き。


「此処かな?」


私のすぐ近くにあった一つの部屋。
私はソッと襖へと手を当てては静かに開けた。








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