謳えない鹿 | ナノ



遠くでコトンと音を鳴らす獅子落しは座敷の部屋の中まで響く。その様子に、此処は酷くのどかで静かな所なのだと思う。

同時にこんな静か過ぎる世界では、物音一つところか気配を完全に断ち切らない限り、相手に自身の存在がバレ命取りとなる。

校舎から離れているこの場所からすれば、刺客達は簡単なものだと油断するだろうがそれは大方相手を油断させるものだろう。

現に自身の向かいには白毛の犬が一匹いる。

『(・・・成程)』

匂いで相手に気付く為か。

『と、思っていましたが、間違いですか?』

何食わぬ顔でそう告げた。
すると、忍術学園の学園長はホホホと軽く笑い飛ばす。

……?不正解?

「その歳で既にそこまで考えて居るとわの・・」

今の言葉に含まれている理由は、大方自身の年齢との同年代の子達の考え方が酷く異なるという事だろう。此処はもっと手を抜いた答えが良かっただろう?
すると、隣にいた前の学園の担任の先生が行き成り頭の上に手を乗せては、思いっきり撫でてきた。



「まぁ、こんな奴ですがよろしくお願いします。上級生は先日の卒業試験で見事合格し、下級生はこいつしか居ないもんで」

ニッカリと清清しい笑みを浮べているのは、僕達の担任の先生。名前は嘔戸先生。決して物を吐くと言う名前ではない。
因みに先輩達はゲ●先生と呼んでは、手元にある小さな黒板をよく投げられていたのは数週間前の話だ。

僕事、摩利支天亮次ノ介は此処から何厘も離れた山の中にあるとある忍の学園にいた忍たまの一人。
しかし、そこの学園は実践の中の実技を主に学ぶ学園であり、いくら入りたての一年生だろうと戦場の中へと投げ出す様な、一発目の授業から命がけの危険な状況を体験する。

その為か、低学年で流れ玉や流れ矢に当たり命を落とす者も少なくは無い。
上級生につれてその数は明らかに減り、今年の最上級生はたったの2人となった。


下級生も初めは僕も含め数十人近くは居たが、実践による負傷忍としての命の危機感等を幼少期に叩き込まれるせいで、恐怖し辞めて行く数は絶えなかった。そしていまや下級生の3年の僕と6年生の先輩2人、それから嘔戸先生に今目の前に居られる学園長先生より更に歳を召した学園長。この5人だけになった。

そこで、もはや存続が無理だと悟った学園長は学園を廃校にすることを決め、僕達3人の卒業試験を二日前に行われた。

勿論、受けていた任務道理に遂行した僕達だが、まだ、三年生だと言う僕にはもっと他の事を学んで欲しいと言う先生の意見により、こうやってこの学園へ編入しに来た訳である。

『(学ぶとしても忍術は大方……)』

そう考えれば自身に足りないものを此処で学べという事だろう。


しかし・・・


『先生』

「なんだ亮」

『制服大きいです』

「やっぱり最上級生の制服は合わないか」

なんでも、自身が入る学年の制服が今の身長に合わなく。只今準備中と言うこと。
だから、其れ迄は自身の背丈に近い上級生の制服を拝借中と言う。そりゃ、同年代の子は一人も居らずほぼ毎日背丈の高い先輩達と行動していれば、身長が追いつこうと勝手に体が成長する。だから、今の自身と同年代の子がどれ位の身長をしているのかが分らない。
今の自身の年齢で考えれば、三年生だろうが制服が小さいなどを考えればもしかしたら四年生かもしれない。
そもそも、向こうは定期的に行われる試験に合格しての進級だ。

『(不安だな・・)』

今になって不安になるって・・・・二年生の時の進級試験を思い出した。

「では、お主が使う長屋を案内しようかの」

と、学園長が言えばタイミング良く一人の青年が襖のむこうから戸を開ける。そして、こちらへとにこやかな笑みを浮かべては、僕も釣られて口元が緩んだ。

「事務の小松田です。何か困ったら何でも聞いてね?」

力になるから!と言ってくれた彼に私も自己紹介しては、小松田さんの後を追うように自身が使う長屋へと案内してもらう為に近くに置いていた荷物を手にとっては立ち上がった。




「亮」

『?』


ふと、呼ばれた僕は先生のほうへと振り返れば、その大きな手で背中を撫でてくれる。
硬い胸板に自然と当たる自身の額が、少しだけ熱を佩びていたこの瞬間。

「休みの時は帰って来い」

皆も帰ってくるから、な?
ゆっくり数回程撫でては三回ポンポンと叩いてくれた先生の着物の袖を掴むのは無意識であって、一種の癖。
同時に遠くの廊下で僕の名前を呼ぶ小松田さんの声を耳に入れる。僕は一礼した後、彼が居る廊下の向こうへと走って行く。











コトンと、再び獅子落としが鳴り、お茶を啜っていた学園長が静かに湯飲みを置く。




「しかし、うまい具合に馴染んでおるのぉ」

その言葉に、亮の背中を見送っていた先生が苦笑を浮かべる。

「もう、バレて?」

「一瞬だけ不安な空気を纏ったじゃろう?」

それで理解したわい。と笑う学園長に、先生は流石ですね。と困った様に頭をかいた。










100328

prev / next

「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -