謳えない鹿 | ナノ



ゲラゲラと笑い声が上がったそこはとある一人の忍たまの部屋から。
普段であれば部屋の主人である彼は、この様な笑い声を出したりはしない。では、誰が?
同学年であり同じ教室に居るものならば、その笑い声を聞いた途端にああ、彼か。と頭が勝手に理解する。


「それで、犯人にあげられたのか?流石に笑えるな」

腹を抱えて床に転がるのは不破の顔を借りている、鉢屋三郎。
場所はとある部屋。詳細を述べるとすればそこは五年ろ組、竹谷の部屋。彼の部屋には何故かボロボロの兵助と勘右衛門。2人はハァとため息をつけば、背中がギシリと悲鳴を上げ同時に腰を抑える仕草に再び鉢屋が笑いこける。

は組での事の始まり。それをきいた勘右衛門と兵助は違うと抗議し、亮の助けもありとりあえず上からは引いてもらう事が出来た。しかし、気絶する兵助を連れい組へと戻る勘右衛門へと投げられた「俺達はお前らも疑って居るんだからな!」と言う台詞だった。

一連の惨事を双忍で有名な2人へと事情を説明すれば、ひとりは酷く心配しひとりは笑いこける現状。そして、今に至ると言う訳だ。
話によれば、亮の筆記具が無くなった事により、物事が始まった。

亮は自室にある予備の筆でなんとかすると言うものの、こんな時に結束力がハンパないのが五年は組。1人が困って居るならば全員で助けるのが暗黙化しているは組に、亮1人の意見では勝てる訳が無く結果的には近隣の彼らから様々な物を借りた。
さて、では忍たまの友を……。と再び手を伸ばした先には何も無く、机下を覗いてはその存在を確かめるもやはり無い。
序でに付け足せば忍たまのだけでは無く、参考書となるもの全てが其処には無かった。

流石のは組も可笑しいと感じたらしく、皆で教室内を探す。もしかしたら、部屋にあるかも知れません。と、部屋へと向かう亮を手伝いに向かったは組の彼。
しかし、部屋には参考書どころかしまっていた筈の予備の制服すらも行方を眩ませて居た。

只、私物を隠しどこからか見付かれば問題は無い。しかし、は組総出で探すもそれらしいものは見当たらない。長屋に厠に廊下など。


「悪戯にしては過ぎるね」


困ったように言葉を紡いだの雷蔵。彼は腕を組みなぜ亮の私物が無くなったのかを考えるも、行き着くその結果はどう見ても悪質な悪戯と言う言葉である。
亮への僻みからの悪戯。
しかし、五年生となれば低学年だった昔とは異なり、力も知識も付き喧嘩と言ったものは正々堂々と真正面からやりあう。
くのたまの様に影からネチネチといった幼稚な事を、この歳でやる方もやる方だから。と、

しかし、現に亮の私物が端から順に消えていっている。
あの後の話しによれば、部屋に置いて居た荷物までもが行方を眩ます。本人は大切な物はないので、無くなっても僕はさほど問題は有りません。と笑って居た。
その話しをは組の親しい友人から聞いた勘右衛門は、眉を寄せたのだ。


「それで、その私物を盗まれた本人は?」

「今は校外に行って演習中。もう少ししたら戻って来るかも」


部屋の主が居ないのにも関わらず此処までのびのびとするのは、きっと部屋の本人がまたかお前ら。と笑って許してくれるから出来る事だ。
大方笑い終えた三郎は自身の部屋から持ってきたその煎餅、彼はそれを銜えながらゴロンと寝転べば隣から行儀が悪いよ三郎。と苦笑混じりの言葉が降りかかる。


「しかし、僻みにしてはちょっと幼稚過ぎないか?普通なら、啖呵切ってから喧嘩するものだろう?」


同級生達の喧嘩。
この歳には少しは落ち着いてくる思考は、大人へと着々と近づいている証拠でもあるが中には未だに思考が幼く直ぐに喧嘩腰になるものだって居る。
そんな彼らは五年生らしく、忍術で喧嘩するのだ。焙烙火矢にクナイに手裏剣。勿論、それなりの被害は大きいが。
しかし、4人の居る空間にハァとひとりため息。
三郎のもので合った。



「普通なら。な−ー」

「?」



寝転ぶ三郎はボリボリと煎餅を噛み砕きながら3人へと視線を向けた。3人はどう言う意味だ?と言わんばかりの表情で彼を見下ろせば、三郎はよく考えてみろよ。と食べかけた煎餅を手に持ち、宙で軽く弧を描いた。



「は組の亮は、組み手でい組の勘右衛門に勝った」

「?……そうだな」

「んで、昨日の課題実習であの小松田さんと組んで起きながら無事に実習を合格」

しかも、相手はあの潮江先輩で。



淡々と言葉を続ける三郎の言葉。
初めは彼が何を言っているのかが分からない。そして、最後に「三年からの飛び級」と言った途端に、3人はハッと気づかされた。



「もしかして、真正面からじゃ勝てないかも知れない。………から?」


勘右衛門の台詞に隣に座っていた兵助がだけど…と言いかける。しかしそれを遮る様に紡いだ雷蔵の言葉、でも、辻褄だったら合うかも知れない。と言った途端に室内は一気に静まり返った。



「だから、亮君の私物を盗んで?」


五年生と飛び級し認められた身体能力に知能、知識。
あらゆる状態で物事を安全に且つ迅速に行える思考は、喧嘩となった時にはかなり役にたつ。
どの様にこの状況を素早く打破し、無傷に近い状態で終わらせるか。
それを実践で目の当たりに出来たのが、三郎が先に述べた組み手と課題実習。ほんわかは組と言われ、実践が全くもって悪い成績でしかないその中へと入り込んだ編入生が、文武両道ない組を差し置いて難なくこなした。

真正面から向かっても、勝てる筈がないのだと。

正にやり方はくのたまらしい方法。陰口を言い、私物を盗み隠す事を。






ふと、遠くから何かが長屋廊下へと響き渡る。
重苦しい空気は一気に廊下の騒ぎへと向けられ、何だろう?と雷蔵が首を傾げた。

初めは遠かった騒ぎは徐々に4人の居る部屋へと近づいてくる。そして、騒ぎ立てる相手がこの部屋の主人であると気が付いた瞬間に、襖がスパン!と気持ち良く開いたのだった。



「何だ、お前ら此処にいたのか!」



ニカ!と笑みを浮かべたのは思った通りの本人、竹谷である。
制服の所々に土がついているあたり、生物委員会で飼っているなにかがまた逃げ出したのに違いない。
すると、竹谷は今し方姿を表したばかりの廊下へと向き直り、ほら付いたから着替えるぞ!と言う。しかし相手は嫌がっているらしくなかなか姿を表さない。


「竹谷、誰か居るのか」

「亮だよ」

「亮?」


しかし、竹谷へとかけられた言葉はどこか濁っており、僕は大丈夫ですから!と何故か部屋にと入って来ない。


「亮!往生際が悪いぞ」

『僕はこれで構わないんですよ、竹谷さん』

「そんな格好してたら、勘違いされるだろうが!ほら、諦めて部屋に入れ亮!」

『強引な性格は女性に嫌われますよ』

「良いから!そんなもんよりお前が優先だ!」



グググと壁越しに居る亮と引っ張り合いする竹谷は、端から見ればパントマイムしているかの様でかなり可笑しい。そんな竹谷に呆れたのか、勘右衛門が仕方ないな。と立ち上がり廊下へと出た。
しかし、襖前から顔を覗かせた勘右衛門はピタリと止まり、ええ?!と驚きの声を上げたのだった。


「ちょっ!亮君、その格好!」

「勘右衛門、亮を部屋に入れるのを手伝え」

「わっ分かった!」

『お二方ひどいです!』

「我が儘言うな!」



勘右衛門が加わった事により、岩(がん)として動く気配の無かった亮の手がぐいぐいと姿を表す。初めは左手首につけていた紐だけが、2人が引っ張り出した事により五年生の制服の袖が顔を覗かせた。

そして歯を食いしばり、顔を真っ赤にさせた2人は変な声を上げては壁に隠れていた亮を一気に引っ張り出したのだ。


「どわ!」

『わ!』

「いた!」



三人が転んだ音と出た声は同時だった。
あたた。と尻をさする竹谷と勘右衛門。しかし2人はすぐさま立ち上がり膝を付いたままの亮の脇を掴んでは、部屋へと引きずり込んできた。
その姿を見た途端、雷蔵と兵助はえ!?と声を上げる。寝転がっていた筈の三郎でさえ持っていた煎餅を落としてしまい、目の前に現れた編入生を見つめた。










『だから竹谷さん、僕は!』

「そんな格好で六年生に見つかってみろ?お前先輩方にかなり怒られるぞ?!」










2人に引きずられながら現れたは組の亮。


















いつも結っている髪の毛はボサボサで頬は擦り傷が目立ち、着ている制服は泥と土埃まみれ。
背中に背負う何かも同様に汚れていた。












100618

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