謳えない鹿 | ナノ



『随分とピリピリされて居ますね』


何に対して。それを言わない辺りは彼も酷いなぁ。なんて俺は思った。
五年い組の入口でこんにちは尾浜さん。と、相変わらずマイペースな彼に、手紙行っていないの?と聞けば、素晴らしい内容では無い手紙を頂きました。とちょっと皮肉っぽい事を告げ小さく笑う。彼はは組で、もしかしてこんな時でもは組のみんなはほんわかして居るのかい?と問えば、逆に面白い位に真っ青でしたよ。一度は組に来てみますか?とても面白いですよ。特に百面相している辺りが。

どうやらは組で落ち着いて居るのは亮君位らしい。
いつもならば休み時間となったこの時間帯では、五年生が居るこの階の廊下を埋め尽くす位に同級生達が賑やかに会話を交わしているが廊下には人一人も姿が無い。まぁ、亮君は例外みたいだけど。


「亮君は緊張していないのかい?」

『課題は明日の明朝です。今から気を張っていては明日まで持ちませんよ?』


本当に彼は落ち着いている。それは六年生と手合わせを一度もした事が無いからの発言からか、それとも本当に自信が有るからか……

い組の入口で話す俺達。今、い組は酷くピリピリの険悪ムード真っ最中だ。相手が六年生と言う事も有るが、何より自分と組む相手がろ組やは組の誰かであり、相手が捕まらない様にと自身が捕まらずどうやって共に行動するかと作戦を練っている最中だったりする。

中には武器となるクナイを黙々と磨いている物や、学園の図面を開いては複数でどこが隠れやすいかと相談していたりする。あの兵助ですらろ組の子を教室に連れてきてはどうするかと会話中だ。

今回の課題は今までのものより一番に厄介な内容だと思える。

まだ、学園の敷地内、武器使用制限と言う事が救いだろうが、自身の相手となる六年生が一体誰なのかと言う見えない恐怖に、い組の皆は気付いたみたい。
自分達によって来る六年生が全てそう見えてしまい、廊下を歩きすれ違うだけで変な緊張感が襲う。

明朝から夕刻まで。なんとも難しい時間帯を指定して来た。
夕刻から次の朝迄ならば暗闇が自分達を隠し守ってくれるが、日が長時間地上を照らすその時に身を隠せと言うのだから難しい。
確かに一流のプロ忍者になれば、昼夜問わず
に上手く隠れては敵から逃げなければ成らない。その為の訓練の意味が込められているに違いない。


『尾浜さんの相方さんは?』

「今、ろ組で別の子と逃走経路を確認しに行っている」


ろ組の中にだって優秀な子はいる。俺と組む相手はろ組でも策を練る事に関しては上級生の中から一目置かれており、様々な状況になった時の頭の回転率がすごかったりする。
彼は六年生に見つかった場合での想定、六年生をどうやって上手く巻くかと考えてはろ組の元へと一時的に戻って居た。
俺は逆に六年生に見つからない様と言う想定での隠れ場所を決めている。
お互いがこういった風に分担で役割を決めていた方が、いざとなった時に動きやすい。

因みにターゲットとなる五年生は俺である。手紙を開いた時に合格。とかかれた文字に疑問を抱いた後に、それは六年生に捕まえられる対象であると聞かされた時は深いため息をついた。
まだ、相手をサポートするのならば得意では有るが、サポートされる側に回るなんて思っていなかった俺からすれば何だか遣りにくい所がある。



「そういえば、亮君は相手の子とは相談したのかい?」


組み合わせは生徒一人一人の能力をちゃんと釣り合わせて組ませていたり、たまにランダムだったりする。しかし、高い確率では組はい組の誰かと組んでいるらしい。

同じ組同士では組まされていないの辺りが、それを証明している。


「亮君は相手の子と作戦練ったのかい?」


少しだけ俺より背の高い亮君へと視線を向ければ、まだですよ。と普通に返されてしまい俺は驚いた。
確かに今からドタバタ足掻いたり、ピリピリしても意味はないだろうが何せ相手は忍術学園最上級生。作戦無しではちゃんと課題をこなす事は不可能に近い。少しだけでも何かしら策を練って置かなければ、補習授業又は赤点のどちらかが確実に自分へと襲いかかる。


『授業を終えた放課後にでも、伺おうかと思っています』



今向かっては邪魔になるだけですから。





彼のその台詞はどこか違和感があった。
それについて、聞こうとした途端にろ組の彼が教室から戻ってきては俺の名前を呼んだ。


『では、失礼します。尾浜さん』

「うん…またね、亮君」









100609

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