謳えない鹿 | ナノ



高らかに詰まれてはぎっしりと埋まる本棚。一つ一つに返却された何冊の本を元の場所へと戻して行く作業を行って居た。
五年もこの作業をしていればどの本が何処の本棚に返すのかも分かってくる。
だから、今僕は自身が持っている本を元の場所へと返すのも苦では無い。一年生のときと比べて背も伸び、届かなかった棚もいまや五年生となり苦労することなく本を置くことができる。
今日の当番は僕と六年生の中在家先輩の2人だ。下級生の三人はテスト週間と言う事らしく、委員会の仕事は少しの間だけお休みになっている。しかし、仕事の内容を既に把握している僕と先輩からすれば、2人で作業をこなす事は簡単だ。
最近は本を借りていく生徒も少ないのか、返却された本を元のところに戻す作業が無くなっている。図書委員の仕事が無くなれば僕達の仕事も無くなり、遣ることがなくなってしまう。そんな事を考えているときだ。フラリと、とある棚を通りかかれば視界の端っこに五年生の制服が僅かにチラついた。
ふと、気がついた僕は、本を持ちながらそちらへと視線を向かれば、つい最近この学園に編入してきた彼なのだと分かった。
相変わらず背中にはあの包みを背負い(少し汚れているみたい)、ジッと手に持つ本を眺めてはペラリと捲る。

「(亮君、本読むんだ)」

一度だけ彼と話したときは三郎がちょっかいをだしてしまい、まさかの喧嘩未遂とはなったが彼と真正面から向き合った位の度胸の持ち主だ。喧嘩早い性格なのだろうかと思ったが、どうやら僕の誤解だったらしい。だって彼の足元には幾つかの本が山積みになっている。あれを借りるつもりなのだろうか?と思うと、量が少しばかり多いよ。とつい口にしてしまいそうだ。



しかし、亮君は見ていた本をいきなりペラペラと一気に捲り出しては、そのまま本を閉じてしまい本棚へと本を戻してしまった。其の後も足元に置いていた本を持っては先ほどと同様に棚へと戻して行き、手元に一冊の本を残しては小さく首を傾げる仕草をした。

「(どうしたんだろう?)」

何かをさがしているのだろうか?

まぁ、コレだけの数の多い本では探している本はそう簡単には見つからないだろう。亮君は未だにあちこちの本棚を忙しなく眺めるも、隣の本棚へと移り上から下まで見て廻る。
流石にかわいそうかな?と思った僕は近くの机の上に持っていた本を置き、彼へと近付けば彼は僕に気がついたらしく、こんにちは。と小声で挨拶してくれた。

(何かさがしているの?)

と、小声で問えば、彼は軽くうなずき持っていた一冊の本を僕へと見せてくれた。

((この本の下巻を探しているのですが、見当たらなくて))

と、頭を掻く彼に僕は記憶のすべてを思い出しては、彼が持つ本の下巻が置いてある場所をさがしだす。彼が持っている本は上巻中巻下巻の三つで構成されていて、いま持っているのは中巻の本。最後となる下巻の本を彼は読みたいのだろう。
僕は確かこの辺・・・と小さく呟いては本棚を一通り見るが、やはりそこには彼の探す下巻の文字は何処にも見当たらない。

「(可笑しいな・・)」

確か以前、その本を僕が本棚へと戻した記憶があり場所的も間違ってはいない筈だと思ったが・・・
すると、本棚の間から、スッと突然出てきた人影に僕は驚きビクリと肩が立つが、亮君は何事も無いかの様に小さく一礼した。

そこに現れたのは中在家先輩で、手には図書貸し出しカードと厚い本を持っていた。

「・・・どうした?」

もそもそと、呟く程度にしか言葉を発しない先輩に亮君は驚くんじゃないかな?と思っていたが、彼は先輩の言葉をちゃんと耳へと拾えたらしく、下巻を捜して居るんです。と小声で先輩にかえした。
中在家先輩は亮君が持つ本の表紙を見ては、いきなり何処かへといってしまう。
僕と亮君は驚いたが、返却棚に本を置き持っていたカードをパラパラと捲り、その作業に探してくれているのだと理解する。
其れを眺める亮君の表情はどう言ったものかは分からなかったが、どこかそわそわした雰囲気をしている。

と、何枚目かのカードを捲っていた先輩はその中から一枚を抜き出してはジッと眺めてしまった。

「?」

『??』

どうしたのだろうかと、僕達は自然と顔を見合わせては再び中在家先輩へと視線を戻せば、先輩は僕達へと視線を戻してから亮君へと首を振った。その様子に僕は先輩が何を言っていたにかは分からないけど、亮君はそうですか・・・と、肩を落とした。
もしかして・・・・

「既に誰かが?」

『みたいですね』

こまったように肩を竦めた彼は笑っているけど、本心は借りたかったに違いない。前の忍者学校でも読んでいたのかもしれない。彼は、仕方ないですよ。と僕へと言うがそれで本当に良いのかな?と思ってしまう。

「亮君」

『はい?』

「君が読みたい下巻の本が戻ってきたら、君に教えてあげるよ」

『!』

僕のその言葉に彼はキョトンとした表情をするが、本当ですか?とオズオズと聞いてくるもんだから、その様子にやっぱりまだ三年生らしいな。と思ってしまう。僕は全然構わないよ。と返せば彼は嬉しそうに一気に笑顔になり助かります。不破さんと言った。

『では、宜しくお願いします』

「任せて」

今は彼が読みたいと言っていた下巻の本は無いが、其れが返却されるまでとりあえず亮君は中巻の本を読んでいるみたい。
僕は、本の貸し出しカードに彼の名前を記入するべくカウンターへと一緒に向った。



「・・・・・・」



だからだろう。
中在家先輩がその貸し出しカードへと視線を落としては眉を寄せていた事に僕は気がつきもしなかった。












100522

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