謳えない鹿 | ナノ



一つの授業が終わっても次の授業がある。上級生と成れば野外授業や遠征等の内容が主となりあちこちの校舎又は野外へとでる事が多くなる。
今だって、忍具を持って裏山に集合と言う言葉がかかっている。その為、ある程度の忍具と救急用の包帯を懐に入れては廊下を歩く。因みに隣にはろ組と合同と言う事で小平太と一緒だ。どうせ行き先は一緒なんだから共に行こうと彼の誘いに私は乗った。

そして、小平太との会話の内容は言わずもがな、先日の演習の事。そして多くの六年生が補習授業を受けることになり、彼も其のことについて話をしていた。

「内容を聞いていないから、どうしようも無いな」

「そうだね」

まだ、補習の内容が座学といった筆記の補習ならばある程度の勉強で赤点を取ることはないのだろうが、此処は忍者を育成する学園だからそう簡単にいかないことを、彼も理解しているらしい。補習授業。その内容が一体どんなものか?今の六年生の間で交わされる話題となっている。
もしかしたら、城一つ落として来い。又は隣国迄遠出しプロの忍者とタイマン勝負して来い等と様々な仮説が立てられている。
各言う私たちだってその話で持ちきりで、もしこんな内容だったら其の日の為にどう練習して置くべきか、と言葉を交わす。

もし、遠出するのならば委員会の後輩達に仕事のことをちゃんと伝え、新野先生にも話をしなければ成らない。
私が行っていた仕事を数馬に引継ぎでお願いして、そうなると数馬が行っていた仕事を二年生と一年生が行う。となればそれなりに仕事の分担と配分を初めから考え直して・・・

「小平太は本当に知らないのかい?」

「知らないぞ。長次もい組の奴に聞いたらしいけど知らないって。」

頭の後ろで手を組みながら口を尖らせるその仕草はまるで下級生達みたいである。
私も行き成り遠出するといわれてしまっては、保健委員会の仕事の件もあり心ここにあらずといった感じで補習授業を受けざる終えない。
頼むから、せめて学園内で行って欲しい。

「お!」

すると、隣を歩いていた小平太が何かに気がついたらしく、私も彼が見詰めるその先へと視線を向ければ、小走りで廊下を走る一人の五年生の姿が瞳に映りこんだ。


「(あれは・・)」


確か、五年へと編入してきたと言う編入生。彼は、手元に忍たまの友と幾つかの紙の束を持ち走ってくる。授業を終える鐘は成ったが、開始する鐘はまだ鳴っては居ない。その様子からすると、彼も移動教室でこの校舎を通って他の教室に向っている最中なのだろう。
以前は、ちゃんと挨拶が出来なくこの瞬間に私はやっと挨拶ができると思ったが、彼は次の授業を行う教室へと向っている最中。しかも、隣には同学年の五年生の姿は無く、もしかしたら迷って時間を裂いて走っているのかも知れない。だって彼は急いでる様子だから。

「(今回も諦めよう)」

コレも不運のせいかな?と考えていると、前の廊下から走ってくる彼は、端側へとよりその歩調を落す事は無く走る。相変わらずその顔は前髪で隠れていて、素顔は見れず彼が背中に背負う包みからは、走るたびにカチャカチャと何かの音が鳴る。
彼が歩を進める度に珍しい薄桜色の長い髪の毛が五年生の制服の間からチラチラと覗く。
私は彼と初めて合った時は座っていたため、はっきりと彼と自身の身長を比べる事は出来なかった物の、こうやって真正面からかれを見ると私より少し背が低い程度だと再確認できた。だけど、他の五年生と比べれば数センチほど大きく、六年生と五年生の中間の背丈なのだと今分かった。
すると、小平太も彼が通れるくらいのスペースを少し空けては此方へと寄る。

確か、名前は亮で合っていたかな?彼はそれに気がつき、口元に笑みを浮かべては『有り難う御座います』と一礼してから小平太の横を通り過ぎた。
確か、彼は三年生だと話を聞いていた。だけど、その物腰の柔らかさを見るとちゃんと目上の人には礼儀のあるいい子なのだと思った。

だが、

いきなりパシン!と皮膚を叩く音が其の空間に生まれた途端私は驚いた。そして、その原点となった方向へと視線を向ければ、後ろに彼、亮が牡丹色の紐を巻く左手に物を抱えたっていた。そして、それを見詰めるのは彼の腕を掴む小平太の姿だった。

「え?!ちょ、小平太?!!」

慌てて彼の名前を呼ぶも彼は亮をじっと見詰めるだけで動く気配が無かった。一方の亮もあの・・と困った様子で小平太へと視線を(多分)向けている。だけど、小平太はそんな事など眼中に無いのか、掴んでいた亮の腕を強引に自身の下へと退いては、前髪で目元が隠れている顔をジロジロと凝視し始めた。

『せ・・・先輩ぃ・・』

亮はと言うと、緊張しているのか体を硬直させ口元には不自然な笑みを浮かべる。多分其れは彼なりの苦笑いなのかもしれない。って、眺めているバヤイじゃない!!

「小平太!!」

「いっだ!!!」

私は頭を思いっきり叩いてやれば、彼は咄嗟に掴んでいた亮の腕をパッと離した。視線で行くようにと促せば、彼は慌てて一礼しパタパタと廊下の向こうへと走り去ってしまう。その後ろ姿が完全に見えなくなってから私は隣の彼へと視線を向ければ、また唇を尖らせた姿が瞳に映り込む。

「伊作!何するんだよ!!」

「何じゃないよ!後輩をいきなり掴んだりする君が何するんだよ?!彼、ビックリしていただろう?!」

と言って遣れば、小平太はだって・・・語尾を濁らせた。

「あいつ、どこかで見たような見なかったような・・・」

「?、彼は先日此処に編入してきたばかりの五年生だよ。遠巻きに見たことがあるとかじゃないの?」

と言うものの、彼はどうだったかな?と腕を組んではいきなり悩み始
める。どこかで亮を見たことがある?もし、市などで彼を見たのならば、あの印象に残りやすい薄桜色の髪はそう簡単には脳裏から離れることはないだろう。だけど、細かいことに関しての物覚えが悪い小平太だから、既にある記憶とゴチャゴチャに混ざっているのかも知れない。
未だに悩むことを止めない小平太に呆れた私は、肩を竦めては彼の背中を押しては裏山へと向った。









100521

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