謳えない鹿 | ナノ



一足先に朝食を終えていた彼は、移動教室の為クラスメートの仲間達が歩く廊下での事。
向こう側からやって来るい組の友人の姿に、おはよーと声を掛ければ此方に気が付いたのかおはようと返してくれた。
すると、途端にその内の一人がお前見たか?!なんて言うもんだから、何を?と返せば飛び級した五年生と鉢屋先輩のやりとりだよ!と言われる。しかし彼は先に食事を終え教室で次の授業の準備をしていた為、見てないよ。と返せば、惜しい事したな四郎兵衛!!と言われてしまった。



「何かあったの?」

「食堂で鉢屋先輩と編入生の先輩の一波乱!」

「編入生?三年生から飛び級して五年生に入ったあの噂の?」

「そう!俺達も初めて今日その編入生を見たんだけど、背が五年生よりも高くってさ!」

と興奮気味に話をする三郎次を抑える様に久作が軽く宥めた。
その隣で、左近が彼、四郎兵衛へと説明する。

「良く分からないけどさ、多分鉢屋先輩と編入生が喧嘩したのかなあれ?」

「言い合いした様子は無かったんだけどさ……」

「でもさ!いきなり風が吹いてよ!偶々近くに座ってた俺達は何だろうって振り返ったら鉢屋先輩と編入生がクナイ構えて、机の上でにらみ合いしてたんだよ!」

「うぇえ?!」

そんな話を先ほどまで食堂にいた自分に聞かされては、驚かざるおえない四郎兵衛。ついさっきまではのんびりとした空間で穏やかに食事をしていたのに、自身が出てから一体何が起きてそうなったのか全く理解出来ない。

それに鉢屋先輩は下級生や偶に同級生、上級生をからかう時がある。自身だって何度かからかわれた時ぐらいあるのだから、大方、鉢屋先輩が何かしらちょっかいを出して編入生を怒らせたのだろうが……。わざわざクナイを出すまでに発展するだろうか?
自身はまだ噂の編入生にはあった事が無いが、もし鉢屋先輩の悪戯に一度キレた程度で喧嘩沙汰になる様な短気な性格ならば日頃ボーっとする自身は一体どんな目に会うのだろうか?
想像しただけでも酷く恐ろしい。

しかし……

「でも、あの編入生怒ってた様子は無かったよな?」

「へ?」

「そうだよな…鉢屋先輩にクナイ当てられながら普通に話ししてみたいだし、クナイ下ろした後も不破先輩に竹谷先輩それから尾浜先輩達と普通に会話してたよな……」

「仲が悪いって感じは無かった様子だしな……」

「喧嘩じゃないって事?」

「どうだろうな…でもさ、五年生相手に編入生とは言え三年生が立ち向かったんだぜ!」

「学年が一つ上だけでも、やっぱり学ぶ学校が違うと度胸も違うのかなって思ってさ」

「度胸か………」

「だからさ俺達も話ししてたんだ。今からでも凄い頑張れば編入生みたいに飛び級出来るかも知れないって!」


すると、丁度授業を開始する鐘が鳴れば、い組の3人はワタワタとし始め、教室へと向かおうとする。と、走り込もうとした久作が四郎兵衛へと振り返っては大きく声をかけた。

「は組の次の授業って手裏剣のテストだろ?頑張れよ!」

「!」

遠くへと消えそうになる他の2人も手を振っているらしく、四郎兵衛も手を振り返せば三人はしばらくして消えた。


鐘が鳴り響く中、中庭へと続く廊下を走りながら四郎兵衛は小さく呟く。

「飛び級した三年生か……」


飛び級したからには数え切れない程の努力を重ねてきたのだろう。
自身が思っているものよりもっともっと。
背が高い五年生か……。

興味を抱いた四郎兵衛は鐘が鳴り終わるその間、一気に中庭へと廊下を走った。
















100520

prev / next

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -