謳えない鹿 | ナノ



放課後の授業を終えた亮はよく話し掛けて来るは組の子と共に夕食を取った。
授業の内容や演習時の詳しい内容を聞き五年生の流れを頭の中に叩き込む。そして、2人して食事を終えては部屋に戻ろうとした所で、彼は委員会があることを思い出しごめんね?と謝り亮は行ってらっしゃいと見送った。

部屋に戻った亮は今日学んだ授業の内容を忘れない内にと、荷物の中にしまっていた用紙の束から一枚抜き取り筆を走らせ復習する。布に包まれた其れを膝元に置き、スラスラと走る筆の音以外その空間には存在しない。
しかし始めたばかりの復習は直ぐに止まる。
ふと、亮はその手を止めては壁へとその視線を向けた。

『そう言えば、ご挨拶をしていませんでした』

持っていた筆を静かに置き、彼は音を立てる事無く静かに立ち上がり制服の皺を払うように手で軽く叩く。床に置いていた包みを持ち上げ紐を肩へと下げてはかけ直す。ギシリと音を鳴らす床の上を歩き、数歩程進んだ所で自身の部屋の襖を開けては外の空気を吸い込む。
遠くで下級生と思える声が此方まで聞こえ、賑やかですね。と亮は言葉を零した。再び襖の閉めて廊下を進み、其の先にあったとある部屋の前で亮の足は止まった。


『失礼します』

一声かけた亮。だが、室内からは返事が無く、亮は疑問符を浮び上げては誰か居ませんか?と襖越しに問いかけるもやはり返事は返ってこない。

『可笑しいですね?』

気のせいでしたか?と一人言を言う彼は腕を組みウーンと考えるが、返事が返ってこないと言う所を見るとやはり不在なのだろう。コレはまた出直してくる必要があるのかも知れない。もしかしたら、は組の彼が言っていた委員会の可能性もある。
タイミングが悪かったみたい。
と思った亮は自身の部屋へ戻ろうとした時だ。




「六年生の先輩が五年に何か用ですか?」

翻そうとした亮へと向けられたそれに、彼は声がした方へと向き直れば五年生の制服を着る一人の人物が其処に立っていた。

『こちらの部屋の方ですか?』

「いえ、友達の部屋ですけど・・・」

『そうでしたか、僕は二つ隣に部屋を借りた者です。ちゃんとご挨拶をしようかと思いつたのですが、ご不在の様で・・』


「ん?でも、貴方は六年生ですよね?」

六年生が五年生の長屋に居るのは可笑しい。そういった意味があるのだろう。編入したばかりなのだから、同じ様な質問はもう聞き飽きて居る筈なのだが、亮は丁寧に答えた。

『あなたとは初めてお会いしますね。始めまして、五年は組に編入した摩利支天亮次ノ介と言います。僕の事は亮と呼んでください』

「え?・・ご・五年生???」

『制服は今日一杯着てなさいとの事です。』

「借りているって事?」

『はい』

そう返せば、彼は驚いたよ。と笑い頭を掻いた。しかし、と亮は思った。自身は彼を見ていない。い組との組み手の中にも居なかったし、は組の子でもない。と言う事は・・・

「ろ組の方ですか?」

と、亮が質問すれば彼は一瞬キョトンとするも、そっか・・と小さく笑う。

「俺はろ組じゃないよ」

『い組の方で?』

「そう、五年い組、久々知兵助。学園長のお使いで授業には出ていなかったんだ」

なる程、どおりでい組との組み手に彼の姿が見あたらなった分けだ。
すると、久々知と名乗った彼は亮へと近寄っては彼をマジマジと眺める。へー、と小さな言葉を零す兵助に自身は何か失態でも犯しただろうか?後ろへと身を引いた薄桜色に彼は、パチリと瞬きする。


『えっと・・』

「亮は背が高いな」

『そんなに高いですか?』

「ああ、八より少し高いや」

『八?』

「この部屋の奴だよ。多分この時間帯に居ないって事は、飼育小屋から脱走した毒虫たちを追っているからだよ。」

『虫が逃げるのですか?』

「予算が上手く貰えないから、付ける筈の鍵が新しく買えないんだ。だから脱走する」

と、面白そうに笑う彼。虫が脱走・・と驚く亮の様子に彼は不思議な感じの子だな。と内心思った。もし、自身が使いに出て行ったその日直に編入してきたのならば、他の子の事を既に知っている筈。部屋が直近くの八ならばもう挨拶は済ませている頃合。
と言う事は本当に入ってきたばかりなのだろう。

「亮、今暇か?」

『はい』

もはや時間的には夕暮れ時を過ぎている。何もない限りは用なんてこの時間帯には無い筈だろう。

「じゃあさ、少し話しないか?」

『しかし、久々知さんはお疲れの様子で・・・』

「そんなものは直に吹っ飛ぶよ!」

と彼は言い、亮の手を掴んではほら!と行き成り歩き始めた。

『久々知さん!?』

「俺の部屋で話そう!」






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