謳えない鹿 | ナノ



いつも移動する際は馴染みである兵助と向かうが、今日は学園長の御使いで欠席中。
とは言っても、ちゃんと担任の先生に話は通っている為、今回は欠席と言う事では無く普通に授業に出席した形となっている。

まぁ、その為今日の組み手の相手は兵助では無く、他の誰かと組まざる終えなくなるだろう。
たまには兵助相手では無く他の同級生を相手にするのもまた勉強の一つだと俺は思う。

場所は校庭、忍たま達が実技の演習を受ける際よく使う場所に俺は居た。
校庭に着いては今回の授業内容を聞く。どうやら今回は、ろ組抜きでのい組とは組の組み手の授業らしい。

い組は文武両道で学年内では誰もが知っていて、勿論その相手がほんわかは組と成れば結果は見えた様なものだった。
は組のみんなは気が優しい人ばかりで、組み手と言った実技の授業になるとてんで駄目な事は誰もが知っている。

勿論、は組のみんなも其れに対する自覚が有るにも関わらず、相手が怪我するだろう?と手加減をしてしまう。

自身達はもう五年生。あと一年で学園の最高学年である六年生となる。
そんな五年生が実技の授業が弱い、だなんてふざけた話だろう。

多分、今回のい組とは組の組み手授業は、先生方の考えによるものだろうと、俺だけでは無く他のみんなも思って居るに違いない。

い組の実技への闘争心をは組の彼等に付けさせる。

「(多分これが狙いなんだろうな)」


視界の所々で、困ったように頭を掻くは組の連中に、やる気が無いのは明らかに目に見えていた。
闘争心の無い相手に組み手も何も無いよ先生。
零れそうになる溜め息を殺した。そんな中で、先生の2人一組のペアに成れ!と言う言葉により、い組とは組は近くに居た相手に声を掛けては、適当にペアを作って行く。

さて、誰とペアになろう?一人で五年生の集団の中へと視線を向けていた時だった。勘右衛門!と声を掛けられた俺が、そちらへと向き直れば1人の五年生が駆け寄って来る。そして、彼の後ろからは同じい組の友人が後を追いかけて来た。

「どうした?」

彼は確かは組の子だ。ムードメーカーで明るい性格で、い組やろ組の皆から慕われてる存在。だがしかし、彼は既にい組の友達と組んでいる様子。一体何だろう?

「勘右衛門、相手はまだ決まって居ないだろ?」

「え?まぁ、そうだけど」

「じゃ……あいつと組んでやってくれないか?」

そう言われ、彼が指差した先に居たのは薄桜色と言う珍しい頭髪の生徒。しかも、着ている制服が六年生のものだから一瞬自身の目を疑った。
しかし、彼の話を聞けば噂の背丈が高い編入生だと言う。
なるほど、多分、五年生の制服は小さくて入らなかったんだろうと理解出来たが、それでも目の前の彼はいまだに困った様な雰囲気を醸し出す。

「亮って言うんだけど、あいつ飛び級で五年生に入ったらしくて実際はまだ三年生なんだよ」

「とっ!飛び級?!」

俺は驚いた。まさか、三年生から五年生への飛び級なんて聞いたことが無い。彼の後ろに付いてきたい組の友達もそれを耳にし、俺同様に驚いては目を丸くする姿が分かった。

「で、勘右衛門にお願いが有るんだ!!」

目の前でパチンと両手を会わせてはいきなり頭を下げた。

「あいつと組んでやってくれ。他のい組の連中だと授業だからって手加減無しで組み手をしそうだから」

なるほど、確かにい組のみんなは基本的に授業に関しては真面目過ぎる所がある。だからいくら相手が手加減をするは組だろうが、全力でかかる所がある。

だから、いくらか手加減の出来る俺が彼、亮君と組む事を彼は望んでいるらしい。

目の前の彼はムードメーカーで有りながら、自身のクラスの友達を一番に考える人物だ。飛び級とは言え彼は数日前までは三年生。全力でかかるい組のみんなは危険過ぎる。
丁度、俺も組む相手が居ない為、彼の願いに構わないよ。と答えれば、彼はありがとう!本当に助かったよ!と感激の声を上げる。
すると、い組の友達に他人の心配をしている場合か?と小突かれては引き摺られ行った。


俺は亮君へと歩み寄れば、遠巻きから此方を伺うみんなの視線に気が付く。
亮君の存在は俺達の中では目立つ為、自然と皆の視線を集めてしまうんだろう。しかし、彼は気が付いていないのか周りをキョロキョロと見渡すばかり。多分、彼と組もうとする相手が居ないせいか、一定の距離をい組から取られていた。

全く、相変わらず警戒心が強いな。
そんな事を思えば、ふと、亮君が俺へと振り返った。

下ろされた前髪が顔の半分を隠していて、彼が一体どんな顔をしているのか分からない。
だが、俺に気が付いた彼は、口元に手を当てては軽い笑みを浮かべては初めまして。と言葉を紡いだ。


「良かったら、俺と組まないかい?」

『宜しいのですか?』

「俺も相手が居なくて困って居たから」

と答えれば、彼はありがとうございます。助かりました。と丁重な口調で言うから、正直胸の中では礼儀正しい子だな。と思った。しかも、彼が纏う気がなんとも言えない位に穏やかなものだから、早速ほんわかは組の気に当てられたか?なんて少し心配した。

同時に、集合の声がかかりペアを作ったい、は組のみんなが先生の前へと集まった。


「では、皆の前で一ペアで組み手を行ってもらう」

これは洞察力と集中力を鍛えるものだ!集中して組み手を行うように!と声を張った先生の言葉に、五年生達ははい!と返事をした。

ふと、隣に居る亮へと勘右衛門は視線を向けた。
すると、彼はどこか楽しそうに笑みを浮かべながら、手を後ろで組み静かに眺めていた。


「どうしたんだい?」

『はい?』

「何だか楽しそうにみえる」

その言葉に一度ぽかんとする亮だが、まぁ、と小さく呟いた。












『懐かしい…って、思っただけです』





















100420

prev / next

「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -