謳えない鹿 | ナノ



「俺は浦風藤内と言います」
「僕は三反田数馬です。宜しくお願い致します」

『亮って言います。苗字と共に名前も長いのでそう呼んで頂けたら僕は嬉しいです』






未だにその身にまとう穏やかな気は優しいものであり、それが彼の雰囲気なのだと理解出来た。




彼は編入生であり、今日この学園に来たばかりなのだと言う。
それにしてはワクワクとした様子や周りに怯えたり驚く様子は、微塵も無い。どこまでも自身のペースで行くらしく、決して取り乱すと言う感情を彼から見受ける事は無い。マイペースなのかはたまた只の天然なのか。
でも、そんな性格が彼の雰囲気にぴったり会っているもんだから違和感の一つも感じられない。

話は大方聞いた。

何でも小松田さんが彼を置いて、入門票を追いかけては姿を消したらしい。全くあの人は何をしてるんだか。と思いながら、逆に彼と出会えるきっかけを作ってくれたのがらまぁ、とりあえず感謝はしてみる。

彼は俺と数馬と一緒に食堂へといく事になった。
彼はおばちゃんにご挨拶すれば、好感度の良い返事を頂いく姿を見た。
そりゃ、まるで育ちの良い武家の人みたいに礼儀正しくふわっと穏やかなあの笑みを浮かべる彼を見れば、どんな女性でも好感を抱く。
おかげで、一緒にいた俺と数馬はおばちゃんの編入祝いだと言い、定食に+一品でオカズを貰う事になった。

滅多にオマケを付けないおばちゃんだから、数馬は不運じゃない!と感激の声を上げ正直五月蝿いと胸の中で言ってやる。

初めはA定食とB定食のそれぞれを選んだ俺たち2人だったが、彼、亮さんは疑問を浮かべた所で数馬が説明。すると、なるほど。とまた笑っては数馬と同じ定食を選んだ。

早くから来た甲斐があり、食堂にはあまり生徒は居らずゆっくりと席を選ぶ事ができた。再び数馬が不運じゃないよ!と感動する。ハイハイ。

俺達は席に付けば向かい合う形で彼は腰掛ける。
早く食堂にきた為、生徒の数は少ないものの人が居る事には変わりは無い。遠巻きに此方を気にする下級生の視線や上級生の鋭い眼差し。
しかしまるで眼中にないかの様な彼の雰囲気は本当に凄い。
俺はと言うと、彼らの視線が痛いと思いながらも、亮さんの纏う雰囲気によりまるでバリアでも張っているんじゃないかと思うくらいに、これと言った危機感が感じられない。

一方の数馬と言えば、立て続けの幸運に酔いしれては花を浮かべていた。

俺は逸れを視界の端に映し出しながら、とりあえずありきたりな質問を彼へとしてみる。

「亮さんは六年生なんですか?」

と言えば、彼はお椀を持ったまま首を傾げるも、その意図を理解してくれたらしくふわりと笑った。


『いえ、これはお借りしているだけです』

「六年生じゃないんですか?」

『はい、僕が入る学年の制服が今の身長に合わないらしく、今は上級生の方の制服を拝借しています』

彼の身長で入らないって、一体何年生へと入るのだろうか?
今の彼の背丈ならば六年生です。と言われれば、ああやっぱり?とつい言いたくなる。いや、でもよくよく見れば六年生よりは少し低いかな?

「前の学園では、何年生だったんですか?」

『三年生です』


へぇ、三年生か。この身長で三年生って事は、彼の居た学園の上級生はきっと背丈が







って!!




「「三年生ぇぇ?!」」


数馬とシンクロした声が食堂内に浸透する。
勿論、食堂内にいた生徒達は何だ?と好奇心及び驚きの視線を向けてきたが、此処は無視するのに限る。


「え?え?三年生?」

『はい』

「歳は?」

『12か13です』

「って言うと?」

『今のご時世戦争孤児なんて、居ても可笑しくないですよね?』

と、疑問系で言われてしまえば、余計な事を聞いてしまったと罪悪感が自身を襲った。
確かにあちこちで城同士の戦は耐えない。一年生にも確か戦争孤児が居る。だから、これは仕方ない事だと思うしか無いが、同年代かもしれない相手からその言葉を聞くと胸が痛む。
今の言葉の意味。深く聞かずとも察しは付く。
自身の年齢を知る方法又は手段が、彼の周りには無かったと言う事。だからあやふやながらも自身の年齢を知っていることは本当は凄いことである。

だが、彼は何もなかったかの様に食事を続ける。差ほど気にはしていないと見える。

「じゃあ、僕達と一緒って事?」

と、数馬が言えば亮さんは俺達へと顔を向けては、きょとんとした。


『浦風さんと三反田さんも三年生でしたか』

こんなお優しい三年生が居るなんて、この学園が羨ましいです。と言うもんだから、数馬は普通に照れて居る。
亮さん、いや、此処は普通に亮君って呼ぶべきだろうが、彼の丁寧な口振りとその素振りは同年代とは思えない。でも、もしかしたら四年生と同い年かも知れないと言うが…イヤ、今の四年生の性格や態度だと言われてもやはりしっくりとは来ない。

しかし、と俺は思う。彼は前の学園では三年生だったと言う事は、自分達と一緒のクラスになるかも知れない。
俺達でさえ亮君と視線を会わせるにも六年生達と同じ位に、首を上げなければならない。
まるで、四年生の斎藤さんでは無いか。

彼が三年生と言う事は他の上級生はどれくらい高いのだろう?と変な疑問が生まれる。


「ねぇ、亮君」

『何ですか?浦風さん』

くちに含んでいた逸れを飲み込んだ後に、亮君がまた笑う。
うう…なんと言う優雅な人だ。同い年だとは到底思えない位に穏やかな雰囲気だ。まるで自身の委員会委員長を見ているみたいだ。


「亮君の居た学園の生徒はあなたみたいな方が多いんですか?」

それは性格もそしてその年代とは異なる背丈と言う二重の意味で。湯のみへと手を伸ばしていた彼は、僕のような生徒ですか?と言葉を紡ぐ。
もし、彼みたいな生徒が居るのが普通ならば、この学園と比較すれば酷く幼稚だと俺は思ってしまう。勿論、忍術学園がだ。

『そうでも無いですよ』

「え?」

『先輩方は授業中だと言うのにも関わらずいつも口喧嘩していますし、先生は呆れてなにも言いません』

まぁ、偶に痺れを切らせては教卓を投げる事は有りますが。と、楽しく笑う。え?え?先輩方?


「あれ?亮君は三年生なんだよね?」

『はい、三年生は僕一人だけです』

「ん?どう言う事」

『全校生徒は僕をいれて三人、先生や学園長をお入れして5人です。因みに下級生は僕だけですね』

それは、学園としての機能はあるのだろうか?
ドクたまだって先生を含め5人以上居るのだ。そんな学園があるだなんて初めて聞いた。

「それじゃあ、他の先輩方は?」

『先日行われた卒業試験で無事合格しました』

なるほど。だから亮君が編入してきたのだろう。下級生が亮君だけでは、学園自体が成り立たない。大方、廃校となる為に彼は此処に来たと言うに違いない。
しかし、全校生徒が三人って……

「委員会はどうして居たんですか?」

『委員会?あちらには有りませんでしたが……。此処の学園には委員会が有るんですか?』

と彼が言えば、隣に居た数馬が目を輝かせては、いきなり身を乗り出した。

「亮君!良ければ保健委員会に来ない?」

『保健委員会?』

数馬の言葉の意味がオレには理解出来た。数馬の事だから一緒に便所のトイレットペーパーの補充に回るついでに、彼に学園を案内したいのだろう。勿論それは、彼に対する好感故の言葉。数馬にとって二歩進めば必ず不運が襲い掛かってくる日常茶飯事が、わずかながらも彼と一緒に行動する事により小さい幸運が数馬へと降り注ぐ。

多分、数馬の中での亮君は幸運をお裾分けしてくれる同学年となって居るんだろう。

まぁ、背丈やその身なりに口振りからすれば、悪い人に見えない。これが俺の第一印象である。


彼は考えてみますと、肯定や否定とも言えない曖昧な返事をするも、数馬はどこか嬉しいそうに頷く。


『……?。三反田さんはそのオカズは苦手ですか?』
「え?あはは……まぁね、でもおばちゃんのご飯を残すことはできないから……」

『では、僕の此方のオカズと交換しませんか?』

「良いの?!しかもそれ、僕が好きなオカズ!」

『はい。僕は此方は苦手でして』

と苦笑する亮君に、またもやキラキラとした視線を向けては嬉しいそうにオカズを交換して居た。




今日は珍しく平和だと、俺は思った。


















100415

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