あなたは知っているでしょうか。
十秒間、相手と目を合わせると恋に落ちることを。


一瞬何が起こったのだろうかと思えた。まるで時間が止まったような感覚、自分の後ろを支えるものを無くした私はふわっと後ろに倒れ掛けた。

「わ、わわちょっと!」

目の前には南沢。私の苦手なタイプの人だ。頭が良くて性格も良くて顔も良くて運動神経も良い、というイケメンの基準を全部満たすような人間だ。けど、こういうイケメンには人格がちゃんと伴っているっていうのが合格条件だと思う。現にこの南沢という男は俺様だしナルシストだし鏡があればすかさずその女の子にもてはやされている顔をチラチラと聞こえる歓声と共にセットしたり得意のサラッとかきあげたりするような人間だ。

当たり前だけど南沢は自分が世界の中心というか自分が全てのような人間だから人を助けるようなマネしない。

ガタンと大きな音を立てて背中から落ちる浮遊感と背中に走る鈍痛が何とも言えない痛みを発して言葉にならない痛みを逃がしていた。

「――っあ―――」

じたばたする私を面白そうに眺める南沢に怒りすら湧いてくる。不可抗力で涙さえ出てきた。私の潤った瞳から出てくる水を返せ南沢。立つのすら痛い。というより面倒臭い。

「……南沢、手貸して」

「ヤダ、面倒臭い」

「私のが面倒臭いんだよ」

南沢に頼るのも凄い癪に障るから自分で起き上がる。

「痛ったあああああ」

「すげぇ音鳴ったしな」

「それでも助けようとしないお前がすげぇよ」

「なんでお前なんか助けなきゃなんないわけ?」

顔が近付く。が、雰囲気もクソもない。後ろは壁だからもう背中から落ちる心配もない。

「………特に無いけどさぁ」

どこに笑うのかわからないけど南沢が笑う。しかも女の子に見せてるいつもの優雅な笑い(笑)とは違って結構豪快なやつ。

「あー、はいはい、押し倒して欲しいんだな子猫ちゃん」

「誰が子猫ちゃんだ」

言うと壁に手を付く南沢。ずるずると視線が下がって南沢が上に見える。もう雰囲気はない。南沢と目が合う。逸らす気も理由もないから勿論そのままだ。逸らすのすら面倒臭い。

10、9、8、7、……
    ……4、3、2、1、0

「………………何?」

「恋に落ちたみたいだな、……十秒間見つめあっただろ?」

ニヤリと笑う南沢にすこしムカつく。
どうやら、否定は出来ないようなのだった。

「覚悟しとけよ、南沢」




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