ばさばさーっ! ……やってしまった……どうしよう。目の前には整った顔の上司。周りには散らばった書類に、二人しか居ない空間。何か色々、ピンチだ。


「ごごごごめんなさい……っ!」

「いや、俺は大丈夫だけど……名前は?」

「だっ大丈夫!」


 何時もは会社で呼ばれない名前を近距離で呟かれて、顔が赤くなる。止めろよその不意打ち。しかも何か嬉しそうな顔してるし。苛めか。これが最近噂のパワハラってやつか。寧ろセクハラ?
 最近忙しくなったのは確かだ。原因は社長なんだけど。別にしなくても良い調べ物を、わざわざ社員使ってやってるんだから。がっつり私用の調べ物の為に多忙になり、上司兼恋人なリュウジと一緒に居る時間が減った。上司だから一緒には居るけど……まぁ、恋人の時間が殆ど取れなくなったのだ。勿論仕方の無い事だし、そろそろそれも終わるから我慢はしていた。していたけど、汚い話になるが女性にも少なからず性欲があるのを、リュウジには理解して欲しい。


「……名前? まだ動けない?」

「あっ、うん!」


 リュウジに言われ、体を退かそうとする。けど何となく、このハプニングが絶好のチャンスな気がして、体が動かなくなってしまった。秘書室はたまたま二人きり。他の人が来る気配はない。社長のヒロトは会議中。頭の中で邪な考えが過り、私は決心した。


「ちょ……名前!」

「な、何?」

「判ってるの? ここ、会社」

「……知ってる」


 リュウジの綺麗な唇に自分のを押し付けた。久々に触れた唇。私だけのもの。なのに中々こうする事が出来なかった。そう思うと更にしたくなって、制止するリュウジも無視して何度も重ねた。舌を入れたら止まらない気がしたので、触れるだけ。気持ち良い。キスってこんなに良いものだったんだ。


「……っ、名字!」

「は、はい!」

「そろそろ怒るよ?」

「ごごご、ごめんなさい……」


 調子に乗ったら叱られてしまった。名字を呼ぶ時は仕事モードの時だ。綺麗な顔を歪めて怒っていらっしゃる。これはヤバい。急いで体を退かし立ち上がると、散らばったままの書類をかき集めた。ひーこれ揃えるの大変だ!


「……ねぇ」

「すみませんごめんなさい会社なの半分頭から抜けてました仕事しますぅ!」

「……そんなに、溜まってたの?」

「え?」


 ふわ。リュウジに体を包まれる。良い匂いがするけど、これは香水なのかな。柔軟剤のでも良いけど、何だか落ち着く。そっと後ろを振り向いてリュウジを見ると、妖艶に笑っていた。


「……さっきので我慢出来なくなりそうなんだけど」

「あ、その……ごっごめん」

「明日、土曜日だよね?」

「う、うん……」

「なら、今日持ち帰って良いよね」


 そう言いながら額に唇を落とすリュウジが色気ムンムンで、気絶しかけたのを社長様に見られて、二人で怒られたのは良い思い出に……ならないと思うの。



120520




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