我が彼氏様は可愛い。何が可愛いかって、顔が。そしてどれ程可愛いかって、隣のクラスのマドンナと彼、蘭丸どちらが可愛いかって聞かれたらコンマ0.1秒で蘭丸を選ぶほど彼は可愛い。わたしはそれを蘭丸の耳にタコが出来るほど蘭丸に言っているのだが、彼はどうもその『可愛い』という褒め言葉が気に入らないらしく、わたしが言う度に顔をしかめて呆れたように肩を竦めるのだ。

「やあ蘭丸、今日も可愛いね」
「お前はどこぞのナンパ男か」

『可愛い』はステータスなんだからもっと誇りに思っていいと思う。なのに彼は「可愛いは褒め言葉じゃない」と頑なに主張するのだ。いい加減認めなさいって。全国の女の子に失礼だぞ!

「だって可愛いんだもん」

わたしは今日も今日とて、蘭丸を『可愛い』と褒めちぎるのだ。


***


「蘭丸、来たよー」
「おう、いらっしゃい。上がれよ」
「お邪魔します!」

今日は日曜日。サッカー部も休み。なぜならテスト前だから。ならテスト勉強しようということで、わたしは今日霧野家にお邪魔した。珍しく蘭丸の方から「俺ん家来いよ。テスト勉強しよう」と言い出したのだ。いつもならわたしから何かと理由をつけて蘭丸の家に押しかけるのに。本当珍しいこともあるものだ。

「何の教科にする?」
「あー…、じゃあ俺英語やる。お前は?」
「それならわたしも」

そう言ってわたしと蘭丸は二人して英語の教科書を開く。蘭丸の部屋の真ん中に置かれた机は大きくて、二人で使うにはまだ大分余裕があった。わたしは蘭丸との距離が離れるのがなんだか嫌で、さりげなく距離を詰める。うん、このくらいかな。自己完結して、問題集に取り掛かった。

「……うーん…」

困った。開いた瞬間問題集を閉じたくなった。えっ、何なの現在進行形とか未来系とか。そんなのやったっけ。
隣でうんうん唸っているわたしを不審に思ったのか、「…どうした?」と蘭丸が問い掛けてくる。わたしはそれに苦笑いで返して、「……未来系って何?」と呟いた。

「……お前さ、授業聞いてた?」
「えっ、聞いてたよ!?」
「それ金曜日の英語でやったばっかりだから」
「えっ」

なんですと。つまりそれは。改めて自分の頭の弱さに落胆した。どれだけ記憶力ないのわたし。馬鹿にも程があると思った。馬鹿丸だしのわたしの様子を見て、蘭丸はため息をつく。そしてわたしがさっき詰めたよりもっと近く蘭丸は距離を縮めてきた。そしてぴっとりくっつく形で、わたしの問題集を指差す。

「いいか、未来系ってのは…」

近い。近いです蘭丸さん。少しわたしが顔を蘭丸の方に向けて動かせば唇がくっつく距離で。シャーペンを握る手に更に力を込める。心臓が高鳴った。

「…で、be動詞+going toを使って……お前大丈夫か?」
「え、何が。」
「顔。真っ赤だぞ」
「あ、えっ…と、大丈夫!大丈夫だよ!」
「…?」

ドキドキドキドキ。鼓動が早まる。蘭丸に聞こえるんじゃないかってくらいに。ここで蘭丸が問題を読むために少しズレた。しかもわたしの方に寄って。蘭丸が動いたことによってふわりと舞った蘭丸の香りが鼻腔を満たす。甘い、男の子らしからぬ匂いにクラクラした。匂いまでもが女の子。何と言う。更に長い睫にぱっちりおめめ。ピンクの髪にさらさらつやつやなキューティクル。可愛い。わたしの中で何かの線が切れる音がした。蘭丸の指南だなんて耳に入らず、わたしは思わず蘭丸の肩に手をかけた。

「?どうした?やっぱどこか調子が…」
「……蘭丸」
「ん?……うわっ!?」

ゴン、と鈍い音が響いた。わたしの下で蘭丸が「…っ、いってぇ……」と呻く。わたしはそのまま、蘭丸に向けて声高らかに叫んだ。

「蘭丸…可愛いいいいいいいいいいいいいっ!!」
「…はあっ?」

とりあえず蘭丸さんの可愛さは異常ということで一つよろしく。そんなわけで蘭丸を愛でます。今から全力で、はい。覚悟しろよ蘭丸!





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