小説 | ナノ




05

「あのあと階段を降りたら何故か理科室にいて人体模型と神崎が追いかけっこしててなんとか人体模型を撒いたらそこは音楽室でピアノがひとりでに鳴り始めて頭痛がしたと思ったらいつの間にか二階で教室前で長い髪を振り乱してドアを殴打している不気味な女がいると思ったら神崎が椅子で除霊(物理)してた」
「元気出せよ勘右衛門!」
「もう一階だ!すぐ出られるぞ!なっ?」
「うん…ありがとう……」


遠い目をして語る勘右衛門に、怒りもどこへやら。肩を叩き励ます三郎と八左ヱ門を見て、なまえは「本当に仲が良いなあ」と思った。
そうして一階に降りた時、ぺたっ、と微かな音が耳に届いた。


「なまえ、なんかペタペタ音が鳴るけど」
「窓の外だよ」
「ああ、本当だ」


藤内の問いにさらっと答えたなまえに、思わず懐中電灯を窓に向ける八左ヱ門。
窓の外には暗闇でも映える真っ白の手。その手がこれまた暗闇でもはっきりと分かるほどの鮮明な赤い血を纏い、

バン!と、窓を叩いた。



バン!


     バン!





バンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバン



「ぅきゃああああああッ!!」



それぞれ一人ずつを抱えて走り出す五年生三人。
しかし窓を叩く手は走っても追いかけてくる。


「昇降口だ!!」
「40秒で靴履きかえろよ!」
「あわわ紐がこんがらがっちゃった」
「みょうじー!!」


五年生が急かすものだから却って焦ってしまったなまえが靴ひもを絡めてしまう。そのなまえを三郎がひょいと抱え上げ、他の三年生二人も同じく抱えられている。
そのまま昇降口にぶつかる様に外に出ようとした三人だったが、


「開かねえええええ!!!」
「ちょ、なんで? 意味分かんないなんで?」
「良いからこじ開けるぞ!!」


パニックを起こす勘右衛門を一喝し、三人がかりで扉を蹴るがびくともしない。
そして、




……ケテケ…

ずるぅ……ずる……





「な、何の音!?」
「テケテケと口裂け女が這いずってくる音ですかね」
「あ、人体模型がこっちに走って来てます。今二階」
「まさかのフルコース!!?」
「うおぉぉおおお開けやあぁぁぁあああああ!!」



激しく扉を蹴る三人を見て、なまえはなんとなく、思いついたことがあった。
ポケットから携帯を取り出し、電源が入らないことを無視して番号を押す。



『 8 7 5 3 』



黒い画面のままだが、電話を耳に当てると呼び出し音がした。
ブツッ、と小さな音がなり通話状態になる。相手が話し始める前に、


「あのね、もういっぱい遊んだでしょ。だからもう僕たち帰るよ。ばいばーい」
ブツッ


 ガ タ ン


「うおッ!?」
「開いた!」
「後ろから来てる!逃げるぞ!!」


慌てて昇降口から飛び出すと同時に、今までいた場所にぐちゃりという音がした。
恐る恐る振り返ると先程追ってきていると言っていたモノたちがまるでバリアでもあるかのように入口に詰まっていた。
安心するも油断は出来ないと、ノンストップで校門まで走る。門では八左ヱ門がまず乗り越え、三年生をひとりひとり受け渡していく。最後に学級二人が乗り越え、無事全員校外へ脱出した。


「はあ、はあ…っ」
「全員いるな?神崎いるよな!?」
「ここにいます!」
「よぉし帰るぞ!一目散に帰る!」


六人で手を繋いで歩き出す。
一歩足を出したその時、





「 ま た あ そ ぼ ぉ 」






「……………」
「……………」
「……………」



無言で再び三年生三人を抱えた五年生は、脱兎の如く走り出した。
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