小説 | ナノ




04

「まあでも、なまえがいればすぐ見つかりますから。ねっ、なまえ」
「ねー!」
「はいはい分かった、分かったから。神崎はどこだ?」
「あっちです」


廊下に出て、なまえが指さしたのは今いる教室とは反対側だった。
思わず黙りこむ五年一同。「じゃあ二手に分かれましょうか」と平然と言ってのける藤内。


「じゃ、じゃあ俺なまえと一緒に行く!」
「はぁ!?」
「それはズルいだろ!?」
「ジャンケン!ジャンケンだ!」
「一人選抜な!」

「先輩たち楽しそうだねぇ」
「俺には必死そうに見えるけどね」


結局二手に分かれたのはそれから十分後のことだった。













「くっそ、勘右衛門の奴…!」
「まあまあ鉢屋先輩。そんなマジギレしなくても。なまえが見たら泣きますよその顔」
「みょうじ泣かせたらお前…兵助から泣かされるぞ三郎…」
「あいつモンペだからな…」


藤内に窘められ、眉間を指で揉みほぐす三郎。一人勝ちした勘右衛門はなまえとガッチリと手を繋ぎ(俗に言う恋人繋ぎだった)、恐々と反対側を進んで行った。
こちらの頼みの綱は妙に落ち着いている藤内だった。三年生は卒業後もなまえと行動を共にしていた所為か、このような、所謂心霊関係に驚くほど耐性をつけていた。
その藤内を三郎と八左ヱ門で挟み階段を降りて行く。三階から二階へ。二階から一階に降りようとしたその時、


一階に繋がる階段に、誰かが立っている。
勘右衛門たちではない。勘右衛門たちは真夏に女性物のコートを着込み、マスクをしたりしないし、そもそも髪だって長くない。
これは、つまり、あれだ。


「わたしってキレイ?」


「「口裂け女ーー!!!」」
「あっ、ちょっ」


両側から藤内を抱え込み、二階に戻り全力で走る。藤内から抗議の声が届いた。


「もう、先輩!口裂け女に会ったら逃げちゃダメなんですよ!逃げたら100mを3秒で追って来…」
「来てる来てる来てる!!」
「そういうのいいから!撃退法とかないのか!?」
「予習済みです!」
「そのドヤ顔いい加減にしないと先輩怒っちゃうからな!!」

「ポマードポマードポマード!!」
「ぅぐわぁああああああああ!!!」


藤内が大声で叫ぶと、口裂け女は苦しみ始めた。
「おお、効いてる」と思ったのもつかの間、顔をあげた口裂け女を見て三郎たちは固まった。


「めっちゃ怒ってるんですけど!!?」
「あんまり効かないようですね。仕方ない、そこの教室に立て篭もりましょう!」
「立て篭もりましょう!じゃねえぞコラァァアアアア」


慌てて手近の教室に滑り込む。三郎と八左ヱ門が二人がかりで扉を抑えるが、強い力で押される。
少し動き始めた扉を見て焦り始めた八左ヱ門が、藤内に聞いた。


「なあ、これ、捕まったらどうなんの!?」
「カマやナイフで引き裂かれて、殺されます」
「もうお前冷静通りこして怖いんだけど!!」
「うわあああみょうじたすけてえええ!!」

「そぉおれっ!」


ガツンッ


一際大きな衝撃で扉が揺れた後、扉には一切力が加わらなくなった。
その代わり教室の外では何かを殴るような鈍い音が幾度か響いた。


「おっ!見つけたぞ藤内!そして先輩方!」
「ああ、左門。助かったよありがとう」
「礼には及ばん」


「……なあ三郎。三年生ってすげーな…」
「ああ…そうだな……」


ガラリと扉が開き、目に入ったのは床に沈んだ口裂け女。そしてその背後に殴打したためひん曲がってしまった椅子を持った左門。
そして顔を真っ青にして立ちつくす勘右衛門と、手を繋いでにこにこしているなまえだった。
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