小説 | ナノ




03

「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」



沈黙が続く教室で、口を開いたのは左門だった。憤慨した様子の彼は、


「全く!名乗りもせずに一方的に遊びを要求するなんて、礼儀知らずな奴だな!!」
「そこ!?」
「もっと気にするべき所があるんじゃないか!?」
「そうそう、何して遊ぶのかとか分からないと予習できないじゃないか」
「それも違うよ!!?」


思考回路が迷子の二人に必死に突っ込みを入れている最中に、背後から勘右衛門ががっしりと左門を抱きあげ、


「もういいから早く帰ろうよ!携帯も見つけたんだし、長居する必要ないよね!? ね???」
「おいコラ発案者。涙目になってんじゃねーよ泣きたいのはこっちだよバカヤロー!」
「まあまあ、勘右衛門の言うとおり帰ろうぜ!もう夜も遅いし…な……」


八左ヱ門が勘右衛門に同意し、教室の時計を懐中電灯で照らす。その結果、見たくもないものが見えてしまった。


「よ、四時四十四分……」
「は、入る前って夜の九時くらいだったよな…?」
「こ、これって…どういう…?」

「なるほど、そっちのパターンか!」
「大丈夫、夜の学校だから、七不思議系統だろ?予習済みだ」

「えええええ何なにナニ!?」
「パターン!?」

「えっと…とりあえず、昇降口に向かいましょう?」
「お前ら落ち着きすぎじゃね!!?」


開いた口が塞がらない五年を余所に、三年は皆で遠足でもしているかのような気軽さで歩き始めた。
慌てて後ろをついて行く五年生は、もはやどちらが保護者なのか分からない状態である。そして左門は未だに勘右衛門の腕の中だ。


……、
 ………、



「な、なあ? 何か聞こえねえ?」
「何かって何? 何なの? 何でそういうこと言うの? 馬鹿なの? 死ぬの???」
「勘右衛門!?」
「そこまで言うことないじゃん!!」
「あれ、本当だ。何か聞こえますね」
「!?」


……ケ、
……………ケ、
………………………テケ、



「あっ、これ、テケテケじゃない?」
「マジか!じゃあ一本道の廊下は不利だな。階段まで走るか?」
「階段の手前の教室でいいんじゃないか?」
「呪文試してみるか?」
「尾浜先輩、こっちこっち」


くいくいとなまえが勘右衛門の袖を引っ張る。どうやら教室に入れということらしい。
テケテケって何!?と心中で叫びながら、教室に入ろうとすると、


「あっ、来た」
「えっ」


藤内の言葉につられて視線を廊下の奥に向ける。

背後から、可愛らしい、幼い顔をした少女が、
地面に這いつくばり、
髪を振り乱しながら、
腕二本だけの力で上半身しかない身体を引きずりながら、


テケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケ


「ぎゃあああああああああああああああ!!!」


思わず叫びだす五年生だったが、猛スピードでこちらに向かって進んでくる『テケテケ』なるものに追いつかれる、そう思った瞬間、


「先輩こっち!」
「早く!」


ぐいっと服を引っ張られ、教室の中に倒れ込んだ。
足を掴もうと伸ばしていたテケテケの手は空を切り、そしてそのままスピードを落とすことができずに教室の前を通り過ぎてしまった。
床に倒れ込んだ五年生だったが、三郎がすぐさま起き上がり、入口の扉をバタンと閉めたが、直後、廊下の奥でぐちゃあぁ、という何かが潰れるような音がした。


「何アレ!?」
「あれは『テケテケ』と呼ばれる妖怪で、列車に跳ねられ胴体が千切れてしまった女の人です。見ての通り上半身のみで移動し、自分の下半身を探しているとか。逃げても時速百キロで追いかけてくるそうですよ」
「時速百キロ!?」
「浦風そんな嬉しそうに!」
「なので狭い校内では直線にしか動けないので、横道に逃げれば巻けますよ」
「ドヤ顔…だと……!?」


予習済みのことが起きて嬉しいのか生き生きと語る藤内。と騒ぐ五年達の声。
それを聞きながら、なまえは教室内を見渡した。
いち、にぃ、さん、しぃ、ご……。

…………アレ?


「あれ? 左門どこ?」
「えっ?」
「ああーー!!?」


バッと全員の視線が教室の外に向かう。
絶望感に包まれる三人を尻目に、藤内はポケットから携帯を取り出す。画面を一緒に見ようとなまえが頬をぴったりとくっつけて覗きこむが、


「ありゃ、圏外だね」
「あーそっちかー。まあ、機械と幽霊って相性悪いし仕方ないか」
「そんなあっさりと!!」

「電波あったらカレ●コですぐ分かるのにね」
「カレピ●ってあの鬼畜アプリのこと!!?」
「左門と三之助の携帯に作兵衛が入れたんですよ〜」
「便利だよな、あれ」


もうやだコイツら…。
そう呟いたのは誰だったか。疲労感を感じながら、三郎は両手で顔を覆った。
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