夢小説 | ナノ




恐慌思考

「なまえ!今日の放課後、委員会するから遅れないように!」
「……はい!庄と彦にも伝えておきます!」


宜しく頼む、と去って行った鉢屋先輩。その姿が見えなくなってからその場にorzの形になる。
きっと鉢屋先輩は僕が委員会に来るのが遅いって言いたかったんだ…。この間、ギリギリになっちゃったから…!
あああごめんなさい!すぐに!今日はすぐに行きます!絶対です!!

決意を刻むべく左手をギリギリと抓りつつ、伝言をするためい組、は組の教室を目指す。
ひとしきり反省し終えた頃に、い組の教室に辿り着く。いつもよりガヤガヤと声が聞こえるが、何かあったのだろうか。
そっと室内を覗いてみるとは組の乱きりしんが佐吉・伝七と言い争っているようだった。
どうしよう。入っていいかな。お邪魔かな。出直した方がいいかな。
もじもじ考えていると一平が話しかけてくれた。


「なまえ?どうしたの?」
「あっ、あの、うん、彦四郎いる…?」
「委員会関係?彦四郎なら今、ちょっと席をはずしてるよ。すぐに帰ってくると思うけど…」
「ご、ごめん…じゃあ放課後委員会があるって伝言お願いしてもいい?」
「うん、分かった。伝えておくね」
「ありが、」

「なあなまえもそう思うだろ!?」
「はあ!?なまえは俺たちの味方だ!!」
「えっ!?」


急に振られた話に対応できない。
ご、ごめん今一平との会話に集中して自分のタイミングの悪さにへこんでたから聞いてなかった!何?何の話!?


「聞いてくれよなまえ!佐吉と伝七が、俺たち一年は組は勉強が出来ないから立派な忍になれないって言うんだぜ!」
「事実だろ!!」
「でも私達は組は実戦経験が豊富だからね!い組は勉強は出来ても経験が足りないでしょ!」
「勉強という基礎があってこその経験だろ!」
「そうだそうだ!いくら経験する機会があっても知識がなきゃ何も出来ないに決まってる!」

「なまえはどっちが正しいと思う!?」
「ええー!?」


そんな無茶ぶりを…!
確かに僕はろ組だから公平だろうけど、どっちに加担しても子供の夢が壊れるようなこと…。
あわあわしながら、角が立たないように何とか方向性を修正してみる。


「た、確かに勉強は大事だよね…。知識が増えるとそれだけ戦術が広がるし…」
「ほらみろ!」
「い組の方が立派な忍になれる!」

「で、でも実戦経験はあればあるほど良いよ。頭では理解してもいざという時に術が使えないと意味がないから…」
「だよな!」
「実戦経験大事だよね!」
「私達の方が良い忍になれるよね!!」

「ど、どっちも同じくらい大切だと思うよ。だからどっちが優秀とか関係ないんじゃないかな…。これから五年かけて、その両方を揃えていくんだし…」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「あっ、あの、ごめん!出しゃばっちゃった!ごめんね!じゃあね!!」


きゃああああ僕なりにアドバイスしたら皆黙っちゃったああああああああああ。
きっと変なことを言ってしまったに違いない。ごめん忘れて!
ダッシュで教室を抜け出して全力では組に向かう。もうやだはずかしい消えたい。

大して距離もないためすぐには組に到着した。そっと室内を覗くと庄左ヱ門みっけ。


「庄左ヱ門」
「なまえ。どうしたの?委員会のこと?」
「うん、あの、今日、放課後、委員会するって…」
「分かった。…所でなまえ、何だか元気がないようだけど…具合でも悪いの?」
「いやっあの、違くて、ちょっと自分の低脳さに落ち込んでるだけで!」
「良かったら僕に話してみてよ。何か相談に乗れるかもしれないよ。なまえは優秀だけど、すぐに一人で抱え込むから…」


優秀だなんてそんなことないです!!
庄ちゃんの方が億千倍くらい優秀です!!!
僕なんてただ無駄に精神年齢重ねた能無し野郎なんです!!


「なまえ?」
「あ、あう、あの、乱きりしんにねっ」
「乱太郎、きり丸、しんべヱに?」
「あと佐吉と伝七もなんだけど!ちょっと余計なこと言っちゃったっていうか!変なこと言っちゃって!」
「それで落ち込んでるの?」
「う、うん、そんなとこ…だ、だから大丈夫!気にしないで!」
「もしかして、三人がい組で喧嘩でもしてなまえに迷惑かけた?ごめんね、後で色々問い詰めておくから…」


さ、さすがは組のブレイン庄左ヱ門さん。この会話だけで事の全容を把握するなんて君本当に十歳?
っていうか、悪いのは僕なんで!!
三人は悪くないんで!!叱らないでやってくださあああい!!!


「あ、あの、ホントに!ホントに大丈夫だから!僕がうっかり変なこと言っちゃっただけだから!だ、だか、だから気にしないでぇえええええ」
「あっ、なまえ!」


自分の不甲斐なさに涙が出そうだったので顔を覆いながら教室から退散した。
全速力で部屋に戻り、さっきのやり取りを思い出して、うわあああと床をごろんごろんと転がりながら反省する。
もっとうまく人づきあい出来ないものか!!お前何歳だよ!精神年齢三十オーバーだろ!しっかりしろよなまえ!!
一人反省会は委員会の時間まで行われた。










「ジャジャーン!今日のお茶受けは鈴雛堂のお団子でーす!!」
「えっ!」
「あの有名な?」
「す、すごいですー!!」
「ははは、驚いただろう。昨日勘右衛門と買いに行ったんだ。さあ、お茶にしよう」


す、すげえ高級菓子だ…!
こんな高価なもの僕なんかが頂いていいのだろうか……。
ああでも、せっかくのご厚意を口にしないと逆に失礼!?
悶々と考えていると、不意に横に座っていた庄左ヱ門が自分の皿から団子を一本取り、


「あ、なまえ、一本あげる」
「僕のもあげる」
「えっ!?な、なんで!?僕なんかしちゃった!!?ごめん!!!」
「乱太郎、きり丸、しんべヱと佐吉、伝七の喧嘩を止めてくれたじゃない。これは感謝の印」
「僕からもお礼を言うよ。あの二人、は組にはつい言い過ぎちゃうみたいだから。なまえ、ありがとう」


えええええ何かお礼に高級団子貰っちゃっ、ええええ!!?
どどどどうしよう、そんなお礼を頂くようなことしてないです!喧嘩に水さしてしらけさせちゃっただけです!ごめんなさい!


「ほう!なまえったらそんな学級委員長らしいことしてたのか。どれ、私の団子もひとつやろう」
「自分以外の組の喧嘩も止めるなんてさっすがなまえ!俺のもあげる!」


!!??
先輩たちも乱入してきたんですけど!?
僕のお皿お団子で山盛りですけど!みんなのお皿から奪ったお団子で!ぼ、ぼ、ぼく、


「ぴゃあああごめんなさいみんなのお団子奪っちゃってごめんなさいうわあああああ」
「え!?」
「なまえ待って!大丈夫だから待って落ち着いて!」
「ごめんなさああああああいふみゃあああああああああああ」
「なまえ!」


結局団子を食べ始めたのはそれから三十分後のことだった。
僕の所為で無駄に時間を使ってしまってごめんなさい…。
お団子おいしい、みんな優しい、だいすき。



一年ろ組学級委員長。
平成からの転生。享年二十二歳。
平成では両親の離婚後、どちらにも引き取りを拒否され施設に。
今世では親からのネグレクト+虐待で自己評価が著しく低く育つ。縦線標準装備な上にネガティブ思考で自罰的。富松の上をいく被害妄想でよくパニックになっている。
手切れ金として忍術学園の入学金+六年間の学費を払い、捨てられる。
びくびくする性格とは裏腹に大人びた意見を言うので、同級生からは尊敬されているが気がつかない。
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