夢小説 | ナノ




番外編04:女装と五年生

「みょうじ!頼む!もう俺にはお前しかいないんだ…!」
「こんな焼きそばより俺の方がいいと思わない?絶対退屈させないから!」
「うどんも焼きそばと大差ねえよふざけんなみょうじは私を選ぶに決まってるだろ!」
「いや普通に考えて俺に決まってるのだ。帰りにおいしい豆腐食べに行こう」
「ご、ごめんねみょうじ…これでも止めたんだけど…」


目の前にずらりと並ぶ五年生。色々な意味で圧巻である。
わちゃわちゃと揉めている四人にあわあわしている不破先輩マジ天使。ついでにうるさいのでこの人たちを天の国まで連行していってくれないかな。
すると言い合いから逃げてきた竹谷先輩が私の両手を握り、必死に頼み込んできた。


「マジで頼むって!俺女装が苦手だから毎回補習なんだよ!」
「でしょうね」
「でもみょうじが横にいたらおこぼれを貰えるかもしれないだろ!?」
「それ自分で言ってて悲しくなりません?」


涙ながらに訴えかけてくる竹谷先輩がちょっと不憫になってきた。
まあ竹谷先輩みたいなガッチリとした体格の人って女装向いてないし…。
五年生はそこそこ重要な実習らしいけど、四年生はただ五年生とペアを組んでの女装授業だし。私は別に竹谷先輩でもいいけど。
そう思って口を開いた瞬間、目の前からすごい勢いで竹谷先輩が消えた。
というか、飛んで行った。


「気を付けてみょうじそれはハチの哀車の術だよ!後輩に忍術使う人でなしなんか放っといて俺と一緒に実習しよう?そんでおいしいものいっぱい食べよう?」
「尾浜先輩すげぇ躊躇なく竹谷先輩の顔面をグーパンしたけど大丈夫ですか」
「大丈夫!」
「竹谷先輩全然動かないですけど」
「大丈夫!」


返事は全部尾浜先輩がしてるけどいいんスか。
竹谷先輩の代わりに手を握る尾浜先輩は素敵な笑顔だ。五年生は仲が良いって聞いてたのに何これ怖い。
っていうか尾浜先輩女装の成績良さそうなのに。何故私にこだわる。
疑問を口にしようとしたけど瞬く間に尾浜先輩が視界からログアウトした。空中で回転して転がる先輩を眺めていたら手にぬくもり。
顔を正面に戻すと鉢屋先輩だった。


「お前はみょうじを使って男に食い物奢らせたいだけだろ!ひっこめ甘味魔王!後輩を餌にするなんて危険なことするうどんとじゃなくて私と一緒に実習しよう!みょうじの望みのままに変装するから、な?」
「鉢屋先輩の裏拳が尾浜先輩にクリーンヒットしたけどいいんですか」
「気にするな!」
「鉢屋先輩何で私の手をぐにぐにと揉むんですか」
「気にするな!」


骨が動いてなんか気持ち悪い。
一発お見舞いしてやろうかと思ったけどその前に鉢屋先輩は足元に沈み、その頭を踏みつける足があった。
何となく予想は付いているが前を向くとそこには心底気持ち悪いとでもいいたげな久々知先輩がいた。ちょっとお金とれそうな絵だな。


「みょうじから離れろよセクハラ野郎。みょうじ、悪いことは言わないから三郎だけはやめとけ。そして俺と明日女装しよう。俺とみょうじならきっと満点だ」
「ああ、先輩は高得点取りたいんですね」
「もちろんなのだ」


久々知先輩も女装得意なのに何でだろうと思ったらい組魂だった。
「だから一緒にやろう!豆腐奢るから!」と熱弁する久々知先輩。
眼前に広がる五年生(だったもの)を順に目で追って、さてどうしたものかと考えると、


「もう、皆やめなよ。みょうじ困ってるじゃない。無理強いは良くないよ」


不破先輩が久々知先輩の手を優しく解き、私から引き離してくれた。不破先輩素敵。でも耳を引っ張られてる久々知先輩とっても痛そう。
五年生の身体を張ったコントが終了し、そういえば、と思いついたことが一つ。


「不破先輩はパートナーもう決まったんですか?」
「え?いや、まだだよ。今から探そうと思って…」
「私、立候補してもいいですか?」
「「「「えぇーーーッ!!?」」」」
「えっ!?で、でも…いいの?」
「先輩が嫌でなければ、是非」


にっこり笑うと不破先輩の顔がぱぁああ、と明るくなった。
ヤダこの先輩可愛い。なんでこの先輩の顔を借りた鉢屋先輩があんなんになるのかちょっとよく分からない。


「それじゃあ、よろしくね、みょうじ!」
「こちらこそ」
「雷蔵ずるい!俺もみょうじとが良かっ」
「え?なに?何か言った?」
「何でもないです!」


未練がましく文句を言った尾浜先輩に不破先輩が食い気味に聞き返すと、尾浜先輩は汗をダラダラかきながら即答で返した。
不破先輩からの圧力半端ない。ただ優しいだけの先輩じゃないんですね了解です。
みょうじと並んでも恥ずかしくないように準備しなくちゃ!と走って行ってしまった不破先輩を見送り、未だに地面に寝そべっている先輩方に手を貸す。
「雷蔵をよろしく頼むよ」、とお願いされたので「お任せください」、と微笑み返す。

やっぱり五年生は仲が良くていいなあ。
ちょっとだけ羨ましくなったので、喜八郎を探しに、競合地帯に足を向けた。
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