夢小説 | ナノ




番外編01:雷蔵と兎

「いいかなまえ。お前はこっちに帰ってきてから以前よりもすごく頑張っている」
「そ、そう…かな?」
「そうとも!だから勇気を出して、私以外の人間とももう少し交流してみよう」
「さ、三郎以外の…? 例えば……?」
「例えば雷蔵やハチなんかはどうだろう」


三郎となまえが平成から帰ってきて十日が経った。
教師陣から事情聴取を受けたり級友にあれこれ問い詰められたり忙しかったが、何とかやり過ごし、更になまえを自分たちのグループに入れることが出来た。
達成感を感じつつも、なまえがまだまだ友人らに対して余所余所しい気がしてならない三郎は、何とか皆と打ち解けさせようと目論んでいた。
元々ろ組の雷蔵と八左ヱ門は優しい気質であるし、特に八左ヱ門は生物委員会所属なだけあって面倒見も良い。まずは同じクラスの二人から仲良くなるべきだろう。


「竹、谷は、あんまり喋ったことないけど、不破は…」
「あっ、みょうじ。丁度良かった!潮江先輩が呼んでたよー」
「雷蔵」


渡り船と言わんばかりのタイミングで雷蔵が話しかけてきた。
丁度良かったはこちらの台詞だと、三郎が早速雷蔵に話を振ろうとした時、意外にもなまえ自身の口から言葉が出た。


「不破、あの、あの……」
「うん? 何か用かい?」
「あ、あのね、この間教えてくれた本、すごく読み易かった、から、ありがとう……」
「ああ!そっか、それは良かった!またみょうじに良さそうな本があったら教えるね!」
「…うん、ありがとう……」


ふにゃ、と笑ったなまえの顔は結構可愛かった。
いや、違う。今気にすべきところはそこではない。何か雷蔵となまえ、親しげに見えるんですが?


「ああ、僕とみょうじは結構話すよ。みょうじはよく図書室に本を借りに来るから」


なんだと。
でも私は雷蔵からなまえの話題をほとんど聞いたことがなかったはず。


「だって、三郎はみょうじの話題になるとすごく苛立つんだもの。あえて言うことでもないと思って」
「苛立つ……ご、ごめんさぶろ……」
「昔の話だ!前の話!今は違うからそんな今にも逃げ出しそうな目で見るな!」


雷蔵さぁん!空気を!少しだけでいいので読んでください!
いや雷蔵に悪気がないのは分かっているんだけど。なまえが泣いちゃうのでよろしくお願いしますよ。


「ごめんごめん。でも本当、最近は三郎とみょうじが仲良いみたいで嬉しいよ。この調子でハチやい組の二人とも仲良くなれたら良いねえ」
「うん!」


即答だと。
な、なんだろうこの気持ち…。
自分になかなか懐かない野良猫がようやく懐いたと思ったら自分以外の人間にはあっさり懐いているのを知ってしまった時のような…。


「あの、あのね、三郎。今度三郎のおすすめの本、教えて欲しい……」


くいくいと三郎の袖を引き、他者の時と比べると少しだけ不安の色が少ないなまえの顔見て。
やっぱり一番頼られているのは私だと思うので。


「ああ、任せておけ」



私は今日も、笑顔でなまえに返事をする。
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