夢小説 | ナノ




20:兎の真実

僕の住むマンションは十五階建ての中層マンション。その十三階の部屋では、窓を少し開けるだけで風の通りが良かった。地上から離れているからか虫はほとんど入ってこない。夏でも冷房いらずなんだとか。
空調は完備されているとはいえ、やはり空気の入れ替えはしたい。だから一日に一回は窓を開けるようにしていた。
あの、台風の日も。

あの日は、午後から本格的に天気が崩れるって言うから、午前中に換気をした。
もちろん一時間もしない内に窓は閉めた。


閉めた、はずだった。


ベッドに腰掛けた僕は近くに落ちた雷の音に硬直して、目をつぶって。雨の音に混じってヒューヒューという隙間風のような音がして。
目を開けたら、バンッ、という音がして窓が全開になった。勢いよく雨が降りこんできて、強風に部屋が曝される。カーテンがはためき、ダイレクトに雷の音が響き、目を開けていられない。
とにかく窓を閉めようと、手探りで進んで行く。
窓に手を伸ばしたその瞬間、厚手のカーテンが暴れだし、なまえの顔に直撃した。
思わぬ衝撃に体勢を崩したなまえは雨で濡れた窓枠を掴み損ね、




そして――――………、


















ちょっとした好奇心だったんだ。
みょうじはどうやって、私のいた時代に来たんだろう、と。
記憶を探りながら当時の状況を語るみょうじに異変が起こったのは、突然だった。
私には頭を押さえ倒れそうになるみょうじを咄嗟に支えることしか出来なかった。私の名前を呼びながら痛いと繰り返すみょうじは真っ青で、抱えた体は冷たかった。
無責任に大丈夫だ、しっかりしろ、と口に出す言葉は驚くぐらい薄っぺらくて。

くたりとみょうじの体からが力が抜けた時は目の前が真っ白になった。
震える手で脈を探り、僅かに振れるそれに安堵した。みょうじは苦しそうで、善法寺先輩のような医療知識のない私には、ベッドに運んで汗を拭いてやるのが精いっぱいだった。


「はちや…?」
「みょうじ、」
「鉢屋、僕…」
「いい、喋るな。まだ顔色が悪い。もう少し寝ていろ」
「うん……」




『僕は、あの時、死んでいたはずだったんだ』
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