夢小説 | ナノ




19:兎の記憶

「僕、が、室町に行った時の、こと?」
「そうだ。こちらに来てひと月近く経ったというのに一向に帰れる気配がない。お前のこともあるし、何年と時間がかかるかもしれないが、何かヒントがないかと思ってな」
「ヒント…」


僕が中学生になって半年のことだった。
両親が仕事の都合で海外に行くことになって、でもそれもたった二年だから日本に残ることになった。元々家を空けることの多い親だったし、家のことはほとんど自分でしていたから問題はなかった。
それでこの部屋に住み始めて、三ヶ月くらい。

その日は台風が近づいていて、外は曇天で、風も強かった。雨が降りださない内に、とコンビニに行こうとしたんだ。
でも向かう途中で雨が降り始めて、雷まで鳴りだしたから、慌ててUターンした。それでも部屋に戻った頃にはずぶ濡れで、家で大人しくしとけばよかった、って思いながらベッドに座った。
服を脱いで、部屋着に着替えた所で外が真っ白になって、少しして大きな音が鳴って。
それで、それで、そのあとは、――――……。


「あッ、うぅ…」
「みょうじ?」
「――あた、ま、頭痛い…」
「おいっ?大丈夫か!?」


急に頭に激痛が走った。堪え切れずに蹲ると、鉢屋がぎょっとしたようになまえの顔を覗き込む。
しかしなまえは頭を抱えたまま浅い呼吸を繰り返すことしか出来なかった。心臓がどくりと嫌な音をたて、体が震え、冷や汗が止まらない。痛みを通り越し、頭の中が真っ白になってどうすることも出来ない。


「おい、みょうじ!しっかりしろ!」
「いた、いぃ…はち、や」


…あ、だめだ。
ぷつんと意識が途切れる寸前、泣きそうな鉢屋の顔が見えた気がした。
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