夢小説 | ナノ




17:歩み寄る兎と狐

みょうじは、買い物に行っていたらしい。つまりは冷蔵庫の中身が補充されているのはみょうじがこっそり買い足していたということになる。
廊下にぶちまけてしまった食材から見てもそれは真実で、そうなると何故こんな時間帯に行っているのかという疑問が残る。


「鉢屋、ごめん、ごめんなさい。僕、僕のごはん美味しくないから、せめて鉢屋が好きなもの食べて欲しくて。でも昼間に鉢屋をひとりにするのは僕が嫌で、僕のわがままで、だから、夜に行ってたけど、でも、それが逆に鉢屋を傷つけちゃって、僕は、だめなやつで…」


段々と声が弱弱しくなっていき、涙が浮かんでくるみょうじの言葉を聞いて三郎は愕然とした。
ごはんが美味しくない?――そんなことはない。
みょうじがわがまま?――そんなことはない。
みょうじがだめなやつ?――そんな、こと。


「そんなことない…」
「え?」
「そんなことない!」


ぎゅ、と服を握りしめていたみょうじの手を握り、無理やりだが視線を合わせる。
みょうじの瞳には後悔と悲しみが色濃く映っていた。


「みょうじの作る食事は美味しいよ。食堂のおばちゃんにだって負けないくらい美味しい!みょうじはずっと私を気遣ってくれていて、わがままなんて一つも言っていない。初日にも言っただろう?みょうじがずっと側にいてくれたから、心強かったんだ。安心して過ごせたんだ。全部、みょうじのおかげだ。お前はだめなやつなんかじゃない!」
「…でも、そんな……うそ…」


なんでみょうじはこんなに自信がないんだ。どうして後ろ向きにしか考えられない。
決まっている。簡単だ。みょうじは学園で、ずっと否定され続けてきたからだ。
だから、みょうじを否定しないこの世界では余裕のある対応ができる。あれこれと気を回すことができる。

だったら、三郎がみょうじを肯定すれば、みょうじも自信を持ってくれるだろうか。
少しは前向きな考え方が出来るだろうか。
自分を責めずにいてくれるだろうか。

ゆらゆらと揺れるみょうじの瞳からじっと目をそらさずに三郎は再び口を開いた。


「わたし…私の方こそ、すまなかった。私は、この世界を知らない。みょうじだけが頼りだ。でも、私とみょうじは学園では正直、良好な仲ではなかっただろう?だからみょうじに愛想尽かされないように、何かしなくちゃと思って。それで家事を手伝おうと思ったんだ。けど、私の打算だらけの行動が、みょうじを傷つけていたなんて知らなかった。すまない、みょうじ。どうか私を許してくれ」


ゆっくりと頭を下げると、みょうじが驚いているような気配がする。
「え」だの「あの」だの、戸惑った声が聞こえてくるが、こればかりは譲れない。
私が頭を上げる気がないことを悟ったのか、みょうじが折衷案を出してきた。


「あの…僕も、悪かったから……痛み分け…」


躊躇いがちに伸ばしてきた右手を、三郎はしっかりと掴んだ。










「わたし…私の方こそ、すまなかった。私は、この世界を知らない。みょうじだけが頼りだ。でも、私とみょうじは学園では正直、良好な仲ではなかっただろう?だからみょうじに愛想尽かされないように、何かしなくちゃと思って。それで家事を手伝おうと思ったんだ。けど、私の打算だらけの行動が、みょうじを傷つけていたなんて知らなかった。すまない、みょうじ。どうか私を許してくれ」


なまえはただただ驚くしかなかった。
鉢屋がなまえを頼りにしている?
愛想尽かされないよう家事をしていた?

――なまえの行動は、独り善がりじゃなかった?
そんな、嬉しいことが、ほんとうに?

許してくれと、頭を下げる鉢屋に、何を言っていいのか分からない。でも絶対になあなあにはしないという雰囲気が伝わってくる。
なまえが謝って、鉢屋も謝って。
だから、そう。


「あの…僕も、悪かったから……痛み分け…」


震えそうになりながら伸ばした右手を、鉢屋はしっかりと掴んでくれた。
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