夢小説 | ナノ




16:狐と兎のすれ違い

ピッ、と小さな音が鳴ったことに気付き、三郎は立ち上がった。
音もたてずに開いた扉からみょうじが顔が見えた瞬間、思わずその華奢な体に飛びこんでしまった。
突然のタックルにみょうじは尻もちをついてしまう。このばかみょうじ。これくらい踏ん張れ。受け身くらい取らないと怪我するって何度言われたことか。


「…はち、や……?」
「ど、こに…っ、行、って……!なん、なんで、私を置いて…!」


困惑の様子が見なくても分かるみょうじの声に、何か言わなければと思うものの上手く声が出せない。
ようやく捻りだした声は無様に震え、泣いていることが丸分かりだ。結局意味のある言葉はそれだけしか話せず、子供のようにしゃくりをあげる三郎をみょうじは持て余しているに違いない。

ああ、困らせている。こんな面倒な三郎を、みょうじは見捨てないでいてくれるだろうか。
背中に回した腕に力を込めると、おずおずとみょうじの手が背中をさすった。温かい掌を感じて、少しだけ気持ちが鎮まる。
廊下に座り込んでいた時間は長くはなかったが、「とりあえず、中に入ろう…?」というみょうじの提案に異論はなかった。











「ど、こに…っ、行、って……!なん、なんで、私を置いて…!」


しゃくりをあげながら泣く鉢屋に、なまえは呆然とした。
鉢屋は、なまえとは違って、強くて、順応力があって、決断力があって。
泣かなく、て。

でも目の前の鉢屋は泣いていて。
不安そうで。
まるで、昔のなまえみたいで。

鉢屋は優秀な忍たまだから、平気だと勝手に思い込んでいた。
自分とは、違うんだって、信じていた。そんなバカみたいな妄信で、鉢屋を傷つけてしまった。
だからなまえは、鉢屋に謝らなくてはならない。こんな酷いことをしたなまえを、鉢屋は許してくれるだろうか。


「とりあえず、中に入ろう…?」


震えそうになる声を絞り出して、鉢屋を家の中に入るよう促した。
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