夢小説 | ナノ




15:兎の勘違い

鉢屋は、すごい。
なまえとは違って、自分のいた時代と今いる時代の違いを貪欲に知ろうとしている。
なまえは、違いを見つけるのが怖かった。知れば知るほど、戻れなくなるような気がして。知りたくなくて、見たくなくて。

やっぱり鉢屋は、強い。忍としても、人間としても。
だから多分、出来るだけ鉢屋の側にいてあげたいなんて、こんなものは僕のエゴなんだろう。
鉢屋はなまえの助けがなくったって立派に生活していける。現に、簡単な電化製品ならあっという間に使えるようになってしまった。風呂も掃除してくれるし、ご飯だって現代の調理器具を危なげなく使って作れる。
鉢屋が炊事を手伝う、と言ってくれた時はとても嬉しかったが、同時に申し訳なくなった。なまえの作る食事はやはり口に合わなかっただろうか。鉢屋の作る料理はとても美味しくて、なまえの料理と並べることすら恥ずかしい。
お世辞でも褒めてもらったことが、少しずつ増えてきた会話が嬉しくて。舞い上がってしまっていたことに今更ながら気付いた。
それならばせめて、鉢屋が食べたいものを食べたい時に食べれるようにしておこう。幸いお金には不自由していない。一人暮らし用の冷蔵庫はあまり量が入らないので、こまめに買い物に行く。
昼間には行けなかった。鉢屋を一人にしておくのはなまえが嫌だったし、だからと言ってわざわざ女装させて連れ出すのも申し訳なかった。その結果、鉢屋が就寝した後にこっそり買い出しにいくことにした。
そっと靴を履き、音をたてないようにドアを閉める。

ピッと鳴る電子音が、暗い廊下に響くような気がした。











買い物は思いのほか長引いた。
どこから見ても子供で、夜中に何度も訪れ、とても一人では消費しきれない量の食品を買っていくなまえは閑散としたスーパーではよく目立つ。よく夜中に入る店員にも顔を覚えられ、あれやこれやと世間話に付き合わされてしまう。
苦笑いと適当な相槌でようやく解放されたなまえが帰宅したのは、家を出て一時間以上後のことだった。
開錠し、ドアを開けた途端、勢いよく何かが飛びかかってきてなまえは尻もちをつく。せっかく買ってきた食材が廊下に散らばるが、そんなことなまえはどうでもよかった。
自分に縋りつき、微かに体を震えさせていたのは、


「…はち、や……?」


なまえとは全然違う、強くて天才の、鉢屋三郎だった。
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