夢小説 | ナノ




13:狐の胸中

まさかみょうじが布団を使わずに寝ていたとは…。
思わぬカミングアウトに怒鳴ってしまったが、自制心をフル稼働させて鎮静化させる。そもそも怒鳴ったところでみょうじをいたずらに委縮させてしまうだけということは分かっているだろう自分。
みょうじは今の家の家主で、学園で散々怒鳴り散らした私を、自分と同じ境遇だからと家においてくれている。良い奴。怒るなー落ち着けー。



布団を購入した後、どこに向かうのかと思えば服売り場だった。
男性用の服はみょうじの服で良いので代わりに女装用の服を買ってほしいと強請ると、これからも女装をするのかと尋ねられた。
外に出るときに、男同士でくっついていてもいいならしないが、と言うとめちゃくちゃ焦りながら女性用の服売り場に連れて行ってくれた。どれがいいのかと聞かれたが、こちらの流行など知るはずもない。適当に見繕ってくれというと、うんうん悩みながら選んでいた。


「えっと…さすがにミニスカートは…アレなので…最低でもひざ丈くらい…?」
「宜しかったら御試着されてはどうですかー?」
「試着…いえ、結構です…」
「わあ彼女さん可愛いですねー!こちらの服とかどうですかー?」
「ミニスカはちょっと…出来れば露出度が低めの…」
「わぁ、彼女さんが心配なんですねー羨ましい☆」
「あはは……」


馴れ馴れしく話しかけてきた女はどうやら店の店員のようだった。
しきりに丈の短い着物や裸同然の露出度の服を勧めてくるが、その度にみょうじがやんわりと断っていく。代わりに希望する服装を伝えると、店員はニコッ☆と笑い、あれやこれやと服を持ってくる。


「あ、これと、これに合うパンツはどれですか?」
「これなんかどうでしょう?」
「じゃあそれで。あと、これとこれ…」
「はぁい、ありがとうございまーす!」


上客だと思ったのか、途中から店員が二人になった。
布地面積の高い服を精算している間、ふと支払いの棚に置いてある小物に目が行った。
これは…何に使うんだ……?
じっと見ていると、みょうじが私が見ていた小物?らしきものを手に取り、「これもお願いします」と購入してしまった。
そんなつもりで見ていた訳では、と弁解するも、似合うと思うよ、と言われ口を閉じる。店員がニヤニヤとこちらを見ていたからだ。もう何も言うまい。

そして化粧品売り場にも行った。女装をするならば、ということで使うものがあれば買っていいと言ってくれた。
とはいえ、この時代では私達の年代はそこまで濃い化粧をしないらしいとみょうじは言っていたので、おしろいと紅、頬紅だけで十分だった。

最後に下着売り場で私用の男性下着を数枚買って、みょうじの買い物は終了したらしかった。
そして私に、「何か欲しいものはないか」と聞く。少し考えた後、「面を作る材料が欲しい」と言うと、文具店に連れて行ってくれた。そこで面の材料を吟味し、買いそろえていく。みょうじの家には筆がないらしいので道具から揃えることになり、結構な荷物になってしまった。


「何か…すまない……」
「いや、大丈夫、このくらい持てるよ」
「すごい指に食い込んでいるんだが…」
「だ、大丈夫」
「それに…その、出費も多かったんじゃないか? イマイチこちらの金銭感覚はつかめないが、買った量からしてみても高くついたんじゃ…」
「それは、大丈夫。お金、多く貰ってる、から」


そういえば、みょうじの親はどこにいるんだろう。
みょうじはむこうに行ってから、どんな生活を送っていたんだろう。

私はみょうじの世話になってばかりだ。
仕方ない部分もあるとはいえ、このままおんぶにだっこ状態が続くのは、嫌だった。何か出来ることはないだろうか。

考え込む私を、みょうじが不思議そうに見ていた。
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