夢小説 | ナノ




12:兎の反省

「女に化けて出たいんだが」
「えっ、じゃあ、…この服…とか…?」
「ありがとう」


出る直前に、鉢屋がやっぱり女装で外に出たいと言い出したので、女の子が着ていても可笑しくない服を選び、着せてあげた。
まだ洋服には慣れないみたいで、苦戦する鉢屋は新鮮で、少しだけ楽しい。今日も顔は久々知だった。


「えぇっと…」
「……………」


外に出た途端、なまえの左腕に全力でしがみ付く鉢屋を見て、「やはり怖いのかなあ」「僕がしっかりしなければ」と意気込むなまえ。
当の三郎からすれば、「これではぐれたりしたら冗談にならねえ」という理由が大半であり、後は恋人に見えれば余計なちょっかいをかけてくる輩が減るだろうという算段だった。
バスや信号の説明をしながらデパートまで歩く。特に問題もなく着いたことにほっとしたのもつかの間、左腕にものすごい力が加わり悲鳴をあげた。


「ぅあっ、は、鉢屋っ?う、うで、痛いん、だけど…?」
「お、おい、何でこんなに人が多いんだ!? 祭りか!?」
「ま、祭り…? いや、ここはいつもこんなだけど…」
「何故!?」
「何故? えっ…うーん、夏休みだから?」
「夏休み?」


あふれ返る人ごみに怯む鉢屋を励ましつつ、こちらの学校について話をする。
小学校、中学校、高校、大学。本来ならなまえは、中学二年生だった。
そこまで話終えた所で寝具売り場に到着した。ここはあまり人が多くない。ほっとした様子の鉢屋になまえも安堵し、布団を検分する。


「あ、鉢屋、ベッドどうだった? 寝にくかったら、布団に、変えてもいいけど」
「ああ。少しだけ、な。しかしわざわざ新しいものを買わずとも、使い古しのでいいんだぞ?」
「いや、家には、ベッドしか寝具ないし、」
「え?」
「え?」
「…じゃあお前は今まで、どこで寝てたんだ?」
「リンビングで…」
「リビングのどこで?」
「そ、ソファで…」
「ソファって、確か座椅子だよな?」
「う、うん。そうだね」
「……寝るためのものじゃあ、ないよな?」
「え、と……うん…」

「………何故言わない!!」
「ひぅっ」


久しぶりに鉢屋に怒られてしまい、半泣きのなまえ。
怒鳴ってしまったあとでそのことに気付き、なおかつ人々の注目を集めていることにも気付いた鉢屋は慌ててなまえの涙を親指で拭った。


「な、泣くな!…じゃ、なくて、泣かないで、くれ。な?」
「う、うん、ごめん」
「いや、私こそ怒鳴ってしまってすまなかった」


胸に手を当て気を落ち着かせている鉢屋。
また怒らせてしまった。どうして自分は上手くやることが出来ないのだろう。
泣いてはだめだ。鉢屋を困らせてしまう。鉢屋は今日初めて外出してたくさん戸惑うことがあるのだから、自分のことで手間取らせてはいけないのだ。
指で乱暴に目元を擦り、涙を引っこませる。同時に、鉢屋がなまえの腕をとった。


「布団が、いい。どれがいいんだ?」


良かった、鉢屋はもう怒ってない。
鉢屋は布団が良いのか。やっぱり、いきなりベッドは寝心地が悪かったか。申し訳ない。
お詫びとして一緒にあれこれ見て回り、鉢屋が気に入った布団一式を購入した。
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