夢小説 | ナノ




09:決意の兎

鉢屋に聞かれるまま全部話し終えた後、茫然としている鉢屋を落ち着かせるべく、お風呂を勧めた。着替えはなまえのスウェットと、新しい下着。一応それぞれの説明はしておいた。

鉢屋が入浴している間にご飯を作ろう。
炊飯器は保温状態だったので開けると、炊飯ジャーいっぱいに炊いてあった。冷凍しようとたくさん作ったのかもしれない。
他は何かあるだろうかと冷蔵庫を開け、無言で閉めた。何これ。なんにもない。さっきお茶出した時に気付けばよかったのに。
めげずに冷凍庫を開けると、こちらは少しばかり詰まっていた。冷凍のうどんを発見。夜はこれでいいんじゃないか。
お湯を沸かしながら、麺とセットで付いていたダシを手にとって思った。

これ、鉢屋が食べたら味が濃すぎる…よね?

そう、そういえばなまえが室町に行って苦労したことのひとつに味覚のズレがあった。化学調味料が一切ない室町時代の料理は、平成生まれのなまえにとってうす味すぎて食べた気がしなかったのだ。


「どうしよう…出汁……あっ」


調味料のストックが置いてある棚を漁ると、鰹節や昆布がパックになっているものが出てきた。なまえの母親が買い置きしていったものだ。「絶対使わないな」と思って直しこんでいたが、お母さんありがとう。
無事に出汁を取り、室町に合わせた味付けに仕上がる頃におにぎりも作っておく。ふりかけを使うか使うまいか悩んだあげく、ひとつだけシソ握りを作り、もうひとつは塩で握った。

鉢屋、食べてくれるかな。
口に合わなかったらどうしよう。



ドキドキしながら行われた食事は、結局何の会話もないまま終わってしまった。












鉢屋をベッドに寝かせた後、部屋から持ってきておいた鞄と帽子を持ってこっそり家から出た。髪を帽子に押し込みながら、この髪をどうしたもんかと考える。

時間は夜の十時。急いで帰らないと補導されてしまうかもしれない。
早歩きで向かったのは、先程自転車を停めたスーパーだった。二十四時間営業に感謝しつつ、カゴをカートに乗せフロアを回る。

初めにカゴに入れたのは勿論鰹節や昆布、煮干しなどの出汁用食品だった。その後、文房具コーナーに行き、筆ペンを三本ほど入れた。
あっちに行ってぶつかった壁に、言語の壁がある。口頭でのやりとりは何とか出来ても、文字が読めない。鉢屋もこちらの文字は読めないだろう。なんせ、あっちは草書でこっちは楷書だ。
そして次に手に取ったのは髪切り鋏である。先程も考えたが、この長い髪の毛はこっちでは目立つ。美容院に行くにもほどほどに短くないと怪しまれるだろう。
野菜、卵、肉、魚を一通り見てカゴがいっぱいになったのを見て、レジに並ぶ。会計を終えて袋に詰め、自転車のカゴに押し込めて帰宅する。

明日は早起きしてご飯作ろう。
なまえには何もしてあげられないから、少しでも安心してほしい。
自身のトリップ時のことを思い出し、決意を固めるなまえ。







明日は、もう少し鉢屋と話せたらいいな、と。
そう思った。
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