夢小説 | ナノ




08:ホームシックの狐

広い湯船に浸かりながら、三郎は今までの話を整理する。
いつもと変わらぬ調子で、つっかえながらもみょうじは今の現状を説明した。


ここは室町時代から約四百年後の平成と呼ばれる時代であること。
元々みょうじはこの時代に生まれであったこと。
いつの間にか若返り、室町時代にいたこと。
この家はみょうじ一人で住んでいること。
どうやって帰るのかは、分からないこと。
三郎が元の時代に帰るまで、出来る限りフォローをすると約束すること。


正直、突拍子がなさすぎて受け入れ難いが、外の世界を見る限り嘘と断言できなかった。


「……帰りたい」


忍術学園に、帰りたい。そう思わずにはいられなかった。
膝を抱え、きつく自身を抱きしめて、静かに涙を零した。










「……これは?」
「う、うどん…です……」


風呂から上がり、みょうじが用意した着替えを苦労しつつも着た三郎が見たのは、湯気がのぼる出来たての食事だった。
いつの間に練ったのか。三郎が風呂に入って三十分も経っていないはずだ。
二人分のうどんと握り飯を見て動かない三郎に、みょうじが慌て始めた。


「あ、あの、ごめん、うどん嫌だった…?」
「そうじゃない。随分早く出来るんだな」
「う、うん。麺は……打って、あったから」
「そうか。ありがたく頂くよ」


テーブルに鉢屋が座ると分かりやすくほっとした表情になったみょうじ。向かいに座り、二人で食事を始める。

特に会話もなく、黙々と食事は進んでいった。









「は、鉢屋は、ベッドに、寝てね」


食事を終え、みょうじは部屋の奥に消えて行ってしまった。
することもないので、見慣れない家具で埋め尽くされた部屋を眺めていると、少ししてみょうじが戻ってくる。
べっどとかいうものは寝具のことらしかった。案内された部屋に鎮座しているベッドを見ると、普段使っている布団より広い。


「…みょうじは、どこで寝るんだ?」
「えっ?あ、あの、僕は…リビング……あっ、さっきの、お茶を飲んだ部屋で、寝るよ」
「…そうか」


ここの言葉が分からない鉢屋を気遣って喋っているのが分かった。
とりあえず、言われた通りにベッドに横たわる。平成のやつらはこんなに明るい部屋で寝るのかと考えていたらみょうじが何かを押し、灯りが消えた。


「おやすみ、鉢屋」
「ああ、おやすみ」


扉を閉めて出て行ったみょうじを見て、目を瞑り布団を顔まで引き上げる。
布団は柔らかくて、暖かくて。

みょうじのにおいが、した。
[] | [] | []