夢小説 | ナノ




07:兎の住処

自転車を走らせて、どのくらい経っただろうか。息があがってきたが無視して、しらみつぶしに探していく。そして、ついに見つけた鉢屋は、可哀相に路地裏で膝を抱えていた。
慌てて駆け寄って怪我の有無を確認して、ジャージに着替えさせる。警官に追われているようなので、用心して顔も変えて貰った。

久々知に変装した鉢屋を見て、思うところがひとつ。髪の長い男は現代にもいるっちゃいるが、ここまで長い男はあまりいない。変に印象に残っても厄介なので、思い切って髪をおろして、女の子ということにしてしまおう。鉢屋の変装が久々知でよかった。髪をおろしてジャージを着ていれば女の子で通用する。

困惑からかなまえに言われるがままに行動する鉢屋になんだか新鮮な気持ちになる。
心細いだろう。不安だろう。その気持ちは痛い程分かるが、話は自宅に帰ってからだ。
途中で警官に話しかけられたが、中学生カップルに見えたのだろう。不審者に気をつけるように言ってすぐに消えて行った。
鉢屋が警官を見て少し怯えたような素振りを見せたのが気にかかる。

歩いて行くとスーパーが見えた。そういえば食材はあっただろうか。寄って帰りたいが、この状態の鉢屋を連れて中に入るのは難しいだろう。
そういえば、ここはタクシーがよく通る場所だった。自転車をスーパーの駐輪場に置かせてもらい、鉢屋の手を握って歩く。タクシーが来ないか待ってみると、数分もせずに発見した。

タクシーでの帰宅は五分程で完了した。無言でついてくる鉢屋を自分の部屋の中にいれ、鍵を閉める。リビングのソファに三郎を座らせ、お茶を淹れようと思ったが、さすがに一人暮らしの家に急須はない。冷蔵庫を開けると未開封の緑茶のペットボトルがあった。
賞味期限を確認して、コップに注いで鉢屋の前に置く。なまえが帽子を取って向かいのソファに腰掛け、自分の分のお茶を口に含むのを見て、鉢屋もそっと口に運んだ。


「は、鉢屋。あの、聞きたいこといっぱいあると思う…けど、とりあえず、不破の顔に戻して欲しい、ん、だけど…」
「…………」
「あ、ありがとう」


素直に戻した鉢屋に居心地の悪さを感じざるを得ない。
鉢屋三郎は、いつもなまえに怒ってばかりで、なまえのお願いを聞いてくれたことは一度もなかった。
やはり、不安なのだろう。早く説明してあげなければ。
そう思うが、何から話していいのか分からない。どうしようどうしようと思い悩んでいると、意外なことに鉢屋のほうから質問が来た。


「……ここは、お前の家なのか?」
「えっ、あ、うん、そう。僕の家、だよ」
「………お前は、みょうじは、ここがどこだか、知っているのか」
「う、ん。ここは、」





「ここは、四百年後の、世界だよ」







鉢屋の手から、コップが滑り落ちた。
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