夢小説 | ナノ




06:驚く狐

目の前に現れたみょうじに、三郎は目を見開いた。


「お、おまえ…」
「鉢屋!け、怪我ない?大丈夫?」
「え、あ、ああ…」
「良かった!じゃあ、あの、早速で悪いけど、これに着替えて!!」
「えっ!?」


こちらが何か言う前にみょうじに遮られた。こんなことは今までなかったことだ。
更にはすごい勢いで安否を確認した後、拒否する暇もなく着替えさせられた。着せられた服はここの人間が着ている服のようだった。触ったことのない布の質感に驚く。


「は、鉢屋、顔変えられる?」


着せ替え人形のように着替えさせられた三郎にみょうじが聞いた。
面のストックならまだある。頷き、顔を雷蔵から兵助に変える。みょうじはじっと髪を見つめて、髪紐をほどいてしまった。
それで安心したらしいみょうじは、三郎の腕を引っ張り、みょうじの服の裾を握らせた。


「ここ、握って歩いて。パトカーが来ても、警官が来ても、無視してね。鉢屋は、僕だけ見てればいいから」
「わ、わかった」


みょうじはよく分からない絡繰りを持っていた。いや、押していたと言った方がいいか。前方にある籠に荷物を入れて、ゆっくりと歩き始めた。
カラカラと絡繰りが音を立てる。何をしていいか分からない現状で指示貰ったことが嬉しかった。言われた通りみょうじだけを見て歩いていると、見覚えのある服をした男たちが近づいてきた。思わず硬直する三郎の腰に、みょうじの腕が回る。


『普通にしてて』


矢羽音が飛ぶ。
逃げなくていいのだろうか。戦わなくていいのだろうか。
小さく頷き、平静を装う。


「君たち、こんな所で何をしているんだい?」
「ダンススクールの帰りなんです。ちょっと遅くなったので、
・・
彼女を家まで送っていく途中です」
「そうか。今日はこの近くに不審者が現れてね。刃物を持っているみたいだから、出来るだけ明るい所を通って帰るんだよ」
「はい、分かりました」


スルスルとみょうじの口から嘘が飛び出すのを、三郎は驚かずにはいられなかった。
更にはその嘘で、三郎を怒鳴りながら追いかけてきた男たちをにこやかにかわしてしまった。唖然とする三郎を余所に、みょうじはまた歩き出した。

しばらく歩くと大きな建物の前で、みょうじは止まった。建物の前にはみょうじが押している絡繰りがたくさん置かれている。みょうじは同じように絡繰りを置くと、今度は三郎の手を握って歩き始めた。
しきりに大きな道を気にしている。三郎もその道に顔向けると、鉄の塊がうようよといた。その中でも目立つ色をした鉄の塊を見つけると、みょうじはおもむろに手を挙げた。


「○○マンションまで、お願いします」


みょうじが手を上げると鉄の塊のひとつが目の前で止まった。
フリーズする三郎を中に押し込み、みょうじは中にいた男にそう言った。あっという間に移動するその乗り物に、三郎は言葉が出なかった。


これから、どうなるんだろう。
目の前にいるのは、本当にみょうじなんだろうか。
不安に押しつぶされそうになりながらも、三郎は繋いだ手を決して離さなかった。
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