夢小説 | ナノ




04:迷子の狐と帰還した兎

ここは、どこだ。

雷の光で包まれたと思ったら、次の瞬間、三郎は見たこともない場所に立っていた。
石で固められた地面に、壁。チカチカと光る建物らしきものと、星がまったく見えない夜空。
混乱の極みに置かれながらも、誰かが近づいてくる気配を感じて咄嗟に暗がりに身を隠した。
観察してみると、混乱は更に大きくなった。
人が歩いている。それはいい。だが、あの服はなんだ?
タソガレドキ城主が着ていた南蛮の着物に似ている気がする。ここは南蛮なのか?
そして、極めつけは謎の物体が高速で走っている。鉄の塊のようだ。しかも光っている。良く見ると、中に人が乗っている。

何が何だか分からなくて、何をしていいのかも分からない。
途方に暮れるというのは、こういうことだろうか。
三郎はただただ茫然と眺めることしかできなかった。













ここは、どこ?
雷がゴロゴロ鳴り始めて、ヤバイと思ってたら鉢屋がどんどん雷の方へ歩いて行くのが分かって焦った。
しかもどんどん光と音の間隔が短くなっていて、この時代では落雷で死ぬのも少なくない。
待ってと言うけど、鉢屋は待ってくれない。
それでどうしよう、と焦ったその時、鉢屋の後ろで真っ白に光った。
良く分からないけど、気がついたら鉢屋に手を伸ばしていて、気がついたら、


「ここ……平成…?」


アスファルトで固められた地面。コンクリートの壁。ビルから漏れる電気。電飾が明るいから全然見えない星空。

見覚えの、ある、景色。

そう、ここは、僕の家の近くだ。
僕が、まだ、平成で何も知らずに中学生をしていた頃に住んでいた。
気配を探って、誰もいないことを確認してそっと歩きだす。歩いて、歩いて、見覚えのあるマンションのエントランスに到着して。
震える手で、オートロックを起動する。僕の部屋は、十五階建ての十三階。角部屋の四号室。
エントランスのキーは、網膜認識だ。瞳を近づけ、


ピピーッ


オートロックの扉が、開いた。
エレベーターは、誰かに遭遇するかもしれないので階段を使うことにした。ここの住人は、ほとんど階段を使わない。
以前の僕なら、十三階も階段で上がるなんて出来なかったけれど、今の僕なら難なく出来る。
五分もかけずにのぼりきると、廊下に誰もいないことを確認して部屋の前に立つ。部屋の鍵は、指紋認証と暗証番号の入力である。
震える手でキーを叩き、指紋の認証を待つが、あっさりと扉は開いた。

素早く部屋の中に入り、電気をつける。
自室に向かうと、ベッドの上に濡れた服が脱ぎっぱなしにされていた。机の上には充電器があり、携帯もセットされている。
壁には埋め込み式のクローゼット。小さなテレビがひとつ。緑を基調とした寝具。
見慣れた内装だった。そう、僕はあの時、部屋にいた。
自分の部屋で、ベッドに腰掛けて。ひどい雷雨をBGMに、濡れてしまった服を脱いで頭を拭いて。
あの時も、外がすごい光ったと思ったら、僕は、



ヴーーーッ ヴーーーッ



すっかり聞きなれない音になったしまったバイブ音に肩を震わせる。
ドキドキと暴れる鼓動を抑えつけながら、スマホを手に取る。画面の起動させると、表示された日付に違和感を感じた。


「あれ…僕、あっちに行ったのもっと後じゃなかったっけ…?」


夏休みの終わりごろだったと記憶していたが、日付を見る限り夏休みはまだ始まったばかりだった。おかしいと首をひねるが、スマホの画面が暗くなってしまったのを見て慌てて思考を切り替えた。ロックを解除して見てみると、バイブの原因はメールが来たからだったようだ。
送り主は警察だった。あんしんメールとかなんとかいうメルマガのようなもので、親から登録しておくようにと言われていたもの。
何気なくメールの中身を確認すると、不審者情報だった。


「………和装した少年…刃物を所持……って、これ、」


もしかしなくても、鉢屋さんじゃあ、ないですか?
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