夢小説 | ナノ




02:苛立つ狐

みょうじなまえという人間は、私と同じ五年ろ組に所属している。
つまりは私と同級生なのだが、コイツが本当に無能だ。

無能なだけでなく、人とまともにコミュニケーションもとれないらしい。
話をすれば噛み合わず、知っていて当然のことをどういう意味かと聞いてくる。聞けばみょうじは孤児であったというから、世間知らずなのはそのせいかもしれないが。

さらに加えさせて貰うなら、あのオドオドとした態度が気に入らない。
ずっとこちらを窺って、少しでもキツイ言い方をすると怯んでしまう。後輩相手に涙目になっていることも少なくない。
つまりは格好の獲物である。いじめの。いじめっていうか、からかいの。
今やみょうじは我がろ組のいじられキャラNo.1だ。

そしてそして、この私、鉢屋三郎はろ組の級長である。
何が言いたいかと言うと、こういうハブられキャラがいると面倒見させられるのが、級長の役割な訳で。


「うっ……ふ、ぅう……」
「…………はぁ…」


今もその途中な訳で。
何コイツ泣いてんの。ちょっとからかわれただけだろ。些細なやりとりだっただろ。まあ相手の方の物言いは少しばかり鋭かったけれど。
泣くほどのことじゃないだろ。早く泣きやめ。私は雷蔵の所へ行きたいんだ。面倒くさい。


「おい、」
「っ、な、なに…」
「お前がそうやっていつまでも泣いていると、私が部屋に帰れないんだが」
「ごめ、ごめんな、さい」
「謝る気があるならさっさと泣きやんでくれ」
「……っ、う、ん、ごめ…」


   ぷ ち ん


「――――謝らなくていいって言ってるだろッ!!」


びくりと肩が揺れた後、じわりと広がる透明の涙。
ああ、しまった、またやってしまった。

押し殺した声に溜息が止まらない。
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