夢小説 | ナノ




番外編03:スタンプとお仕置き

「作兵衛〜!ごめん、これ壊しちゃった…」
「またかよ!何に使ったんだよその桶。バラバラじゃねえか」
「ごめん…乱定剣の練習しようと思って…」


どこにぶつけたのか桶はバラバラのボロボロ。修繕には少し時間がかかるだろう。
増やされた仕事に作兵衛は溜息をつきながら藤内に文句を言う。


「予習するのは良いけど、もっと大事に扱ってくれよ!修理するのは俺たち用具委員会なんだぞ!」
「はい…仰るとおりです…」
「一応規則だから先輩方に報告するぞ。覚悟はしとけよ」
「出来るだけソフトな言い回しでみょうじ先輩が『もう、仕方ないね』って許してくれる感じに報告してくれ」
「無理」
「ですよねー…」


がっくりと肩を落とす藤内に、だったら初めから壊さなければいいのにと作兵衛は思った。







「今日は藤内に残念なお知らせがある」
「えっ」


三年一同で食卓を囲んでいた時。
突然作兵衛がそう言った。名指しされた藤内は勿論、それ以外のメンバーも何事かと注目している。


「連日の予習による破壊行為でみょうじ先輩がご立腹だ。放課後みょうじ先輩の部屋に来るように」
「ええぇぇぇええ!!!」
「うわあ藤内死んだな」
「ドンマイ」
「三之助と数馬酷い!人ごとだと思って!」
「早く綾部先輩にアポ取ってこないでいいの?」
「あ、そうだった!じゃあ早速…」
「言い忘れたが今回は綾部先輩の同伴は禁止だ」
「…………」
「藤内が真っ青だ」
「これは仕方ないよ…もう……仕方ないよ……」
「何でそんなに怖がるんだ?みょうじ先輩、全然怖くないじゃないか!」
「そうだぞ藤内。みょうじ先輩はちょっと気まぐれで毒があるけど優しくて良い先輩じゃないか」
「そう思うのは左門と孫兵だけだろ…」
「うわあぁぁあああ死んだああああああ!作兵衛何とかして!!」


何故かあのみょうじ先輩に懐いている二人は抗議を入れるが、誰も耳を貸さなかった。
硬直状態から回復した藤内は箸を置いて作兵衛に縋りつく。作兵衛は藤内の肩をぽん、と叩き、


「骨は拾ってやるよ」
「うわああああああ!!!」


食堂には藤内の悲痛な声が響いた。









「先輩!藤内連れてきました」
「ご苦労様」


放課後、もういっそのことバックレてしまおうかと思っていた藤内だったが、先を読んだのか作兵衛が教室まで迎えに来た。
青い顔で作兵衛に引きずられていく藤内を見て、数馬は「まるで出荷される羊のようだ」などと思ったが、それはどうでもいいことである。
四年長屋を通りなまえの部屋に招きいれられる。なまえの部屋には座布団が二つ用意してあり、作兵衛が同席することに少なからず藤内は安堵をおぼえた。


「さて浦風。お前のこの数日学園内の備品への破壊行為はごめんなさいでは済まされない域に達しているんだけど、何か言いたいことない?」
「す、すみませんでしたぁああ!」
「謝って済むなら戦争なんか起きない」
「重くて暗い現実を突き付けられた!」


反射的に突っ込みをいれてからサァー、と血の気が引くのが分かった。見ると作兵衛もなまえの顔色を窺っている。
しかし当のなまえは特に気にしていないのか、何の反応も示さずに話を続行した。


「お前が甲斐甲斐しく破壊活動してくれたおかげで用具委員会は大忙し。よって、浦風にはこれを与えよう」
「こ…これは……スタンプカード…?」
「それは用具カードと言って、用具委員会のブラックリストに載っている人だけが持つカード。一回粗相をする毎にアヒルさんスタンプが蓄積される」


厚紙に綺麗な直線で正方形が十個。
最初の一つには用具委員お馴染みのアヒルさんを模したスタンプが押されていた。


「ち、ちなみに十個溜まったら何かあるんですか…?」
「お仕置き」
「え」
「お仕置きが待っています。ちなみに内容はその時の気分で私が決める」
「みょうじ先輩が決めるんですか!?」
「そう。そして実行するのも私…」
「ひえぇぇえええ」
「そのカード持ってるの浦風だけじゃないから、お仕置きの内容が気になるなら先輩方に聞いておいで」
「先輩方?例えば…?」
「例えば体育委員会委員長の七松先輩だとか会計委員会委員長の潮江先輩だとか用具委員会委員長の食満先輩だとか」
「食満先輩まで!!?」
「あの先輩、すぐ潮江先輩と喧嘩して物壊すんだよ」


みょうじ先輩容赦ねえええ!
自分の委員会の先輩にまでカードを持たせてるなんて思わなかった。
つーんとそっぽを向いたなまえは呆然とする藤内をチラリと見た後、


「あとは作法委員会委員長の立花先輩とか」
「う」
「作法委員会の喜八郎とか」
「うう」
「作法委員会の笹山とかが持ってるから色々聞けるんじゃないかな。作法委員会の浦風くん」
「ううう……」


何やってんすか先輩たち!あと兵太夫も!いや俺もだけど!
作法委員会あと一人でコンプリートじゃないか!
っていうか綾部先輩にも持たせてるんだ!?あんなに仲が良いのに意外…。
謝罪に謝罪を重ねて退室を許可してもらい、作兵衛と連れだって歩きながら言うと、作兵衛が何故か誇らしげに言った。


「みょうじ先輩、公私はきっちり分ける方だからな!いくら仲の良い綾部先輩でも、叱るべき時は叱っておられた」
「へえぇ…」


そういえば前に綾部先輩が珍しく穴を掘らなかった日があった。あれはもしかしたらお仕置きだったのかもしれない。
それならばこのお仕置きはそこまでビビるようなものではないんじゃないか?
それに、そう!壊さなければいいだけの話だし!


「いや、その考えは甘いぞ藤内」
「へっ?」
「あれを見ろ」
「は?………うええええ!?」


作兵衛が指さす方向を見る。そしてあまりの光景に絶叫した。
言葉が出てこない藤内に声をかけたのは側にいた作兵衛ではなく、近くにいた仙蔵だった。


「な、な、なっ!」
「どうした藤内。壊れた絡繰みたいになっているぞ」
「多分、何ですかあれはって言いたいんだと思います」
「何ですかだと?見れば分かるだろう。女装した文次郎と留三郎がカップル繋ぎしながら学園中を練り歩いているんだ」
「何でそんなことになってるんですかあああ!!」
「それは…その、あれだ……」


急にごにょりだした仙蔵に作兵衛は優しげな目で耳打ちした。


「ほら、さっき藤内も貰っただろ?」
「もしかしてお仕置き!?スタンプ十個で行われるみょうじ先輩のお仕置きなの!!?」
「な、何故藤内がそのことを知っている…!?」
「藤内もとうとう仲間入りしたんで」
「くっ…!作法委員会の最後の砦は藤内ではなく伝七だったか…!」
「それで立花先輩がつかず離れずお二人の後を追っているのはもしかして…」
「ああ。私はあの二人の監視役を任されている」
「何故…立花先輩が……」
「なに、取引が成立したまでのこと」
「取引?」
「このお仕置きを無事完遂させればスタンプが一つ減るのでな」
「せこっ!」


それでは私たちはこれで失礼する。
そう言って立ち去った最上級生三人を見送る藤内に、作兵衛は努めて優しく言った。


「みょうじ先輩、精神的にくるエグいお仕置き好きだから、お前本当に気をつけろよ?」


ちなみに俺らはみょうじ先輩に逆らえないから。
そう言われた藤内の顔は本日で一番青白く、屠られる直前の家畜のような表情だったと作兵衛は語った。



ハイスコアという少女漫画で大門カードっていうのがあって、スタンプが溜まると校長室で正座をした後、保健室で三点倒立だったけど毒林檎主ならお仕置きだなって思って書きました。
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