夢小説 | ナノ




番外編01:過去と理由

※性行為を連想させる文があります。あと少し下品かも。苦手な方はご注意ください。





















一年生と二年生でペアを組み、裏裏山にあちこち仕掛けられた謎を解き、学園まで戻ってくるオリエンテーション。
三年生は仕掛け人だったよ。問題を出したり、脅かしたり、罠にかかった奴らを救出したり。
一年生が裏裏山に慣れるため、簡単な忍者文字を読み解く練習、上下関係を築くため。様々な思惑があったオリエンテーションだったが、それはとても簡単な授業で、道にさえ迷わなければ何も問題はなかった。

ない、筈だった。

どこから迷い込んだのか、中間地点である小屋に山賊がいるだなんて、寝耳に水だった。
山賊らは幼子である下級生を見て人売りを目論んだようで、ろくに抵抗もできない一年生を人質に手当たり次第に小屋に押し込んでいった。
それだけで済めば、じっとさえしていれば教師陣が駆け付け山賊をねじ伏せて終了だったが、悪いことに二年生は当時から今と変わらない非常に整った顔をしていた。
そうなれば衆道に走る下種も少なからずいるわけで。最初のターゲットに選ばれたのがみょうじなのは、まあ顔からして当然だった。

さすがに抵抗を重ねるも、十一の子供の腕力が如何ほどのものになるかなんて、言わなくても分かるでしょ?
奴らはよってたかってみょうじの体を抑え込み、服を肌蹴させ、厭らしい笑みを浮かべて、汚い手で触って、


そこで、教師陣が小屋に駆け付けた。


驚く山賊を尻目に次々と伸していって、床に転がったままのみょうじを抱き起した。
先生が服を整えている間、みょうじはじっと倒れた山賊を見ていた。そして突然ふらりと立ち上がって、山賊が武器として持っていた棍棒を拾い上げ、止める間もなく振り上げて―――…


ガツン!


と振り下ろした。びっくりするぐらい鈍い音がしたよ。そのまま手当たり次第に山賊に襲いかかった。
慌てて先生が止めに入ったけど、あの時のみょうじの目はすごく冷たくって、射殺されるってこんな感じなのかなあって思ったね。

後々みょうじは先生方に「よく覚えてません」とか「気づいたら先生に抱えられてた」とか言ってたけど、あれは錯乱したわけでも、恐怖からの行動じゃなくて怒りだったね。復讐っていうか。『てめぇ誰に何してんだぶっ殺すぞ』って感じ?
その証拠にみょうじが狙った場所は下半身だったよ。下半身っていうか、まあ、うん。

でも事情が事情なだけに、先生方も深くは言及しなかったし、特に罰も与えられなかった。
それはいいんだけど、気の毒なのは当時の一年坊たちでさ。山賊に捕まるわ、先輩が目の前で襲われるわ、その先輩が山賊の急所を潰すわでもう涙目。
あの一件で、みょうじは【怒らせると何されるか分からない先輩】っていうレッテルがついたっぽいよ。
多分みょうじが後々遭遇する変態を一人残らず不能にしていったこともその原因じゃないかな。
え?ああ、女装で町に出たときとか、数回あったらしいよ。学園の中でも起きていたはず。犯人は食満先輩をはじめとする用具委員の上級生にボコボコにされてたけど。





「まーそういう訳で!みょうじは今の三年生に恐れられているのです!――イデッ!」
「お前は一年生相手になんちゅーことを話してんだ!」


笑顔で明るく話をしめた勘右衛門の後頭部をどこからか現れた三郎が殴った。
殴られた頭を撫でながら文句を言う勘右衛門を無視して、なるほどと真面目に頷く庄左ヱ門に、


「どうしてこんな話になったのか知らないけど、これはみょうじのプライバシーに関わることだ。絶対に口外しないように」


いいね、と念を押すと素直に頷く後輩。
その反応に満足した三郎は、そもそも何故この話題になったのか、事の発端を尋ねた。


「入学してすぐに三年の先輩方がみょうじ先輩に対してだけ妙に素直だと感じていたんです。三年生と四年生は仲が悪いのに何故だろうとずっと気になっていて…」
「それで勘右衛門に聞いたのか」
「はい。尾浜先輩に聞く前にみょうじ先輩にも聞いたんですけど」
「本人に聞きに行っちゃったの!?」
「聞きに行っちゃいました」


えへへーと笑う庄左ヱ門に、いくらしっかり者でもやはりこの子は一年は組なんだと思い知らされる三郎だったが、その時のみょうじの反応が気になる。
気になるので、続きを促してみた。


「そ、それでみょうじは何て言ってたんだ?」
「面倒だから委員会の先輩にでも聞いておいでと言われました。ちょうど尾浜先輩がその場にいたから詳しく語ってくれるだろうと」
「みょうじのお許しが出たから、詳しく語っちゃいましたー!」
「勘右衛門…お前……」


せめてもう少しオブラートに包んでソフトな表現が出来なかったのかと。
ネチネチと責め立てる三郎と、面倒くさそうに聞き流す勘右衛門。その光景を見ながら、「尾浜先輩のお話を聞いて納得しました」と庄左ヱ門は言った。


「みょうじ先輩に、尾浜先輩から話を聞くように言われた時、言われた言葉があったんですが、今のお話を聞いてその意味がようやく分かりました」
「言葉?」
「みょうじ、何て言ってたの?」
「ええと、」



「『要らないものを潰しただけ』、と」



仰っていました。


「「………………」」



みょうじを本気で怒らせるはやめよう、と心に強く誓った三郎と勘右衛門だった。
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