夢小説 | ナノ




18:ぜんざいと用具

「みょうじせんぱぁい」
「みょうじ先輩って女の子なんですかぁ?」
「ハァ?」


天女が学園から去って数日経ち、学園がすっかり平和に染まった頃。いつか約束した甘味屋に、用具委員会全員でお茶しに来ていた。
にこやかに冷やしぜんざいを楽しんでいた私だったが、喜三太としんべヱのよく分からない一言で場が凍った。
ちょっと前まで散々言われていたそのフレーズを急に振られたもんだから、愛想のない返事になってしまったのは認めるけど、そんな露骨に「やべえ」って顔しなくて大丈夫ですよ食満先輩。さすがに一年にキレたりしないから安心していいよ作兵衛。


「どうしてそんなこと聞くの?」
「噂で聞いたんです」
「みょうじ先輩は実は女の子で、事情があって男装して忍たまにいるんだって」
「それ…僕も聞いたことある……」


なんと平太まで聞いたことがあるそうな。誰だ噂流したのは。出て来い喧嘩買ってやるよ。とりあえず帰ったら鉢屋先輩を殴る。
対下級生用の笑顔を維持しながらそんなことを考えつつ、これ以上変な噂にならないよう訂正してあげることにした。


「もう、何言ってんの。前に皆で一緒にお風呂入った事あるでしょ?」
「あっ」
「そうだった!」
「僕はちゃんと覚えてましたよ。違うよって、言っておきました…」
「ありがとう、良い子だね平太は」
「ああ〜!平太ばっかりずるーい!」
「みょうじ先輩、僕達もなでなでしてください!」
「二人が噂を聞いた人にちゃんと違うよって言ってくれたら撫でてあげる」
「本当ですか?」
「じゃあ帰ったら早速言いに行こうね!」
「あの…何で俺を撫でるんですか…?」
「何となく?」
「富松先輩ずるぅーい!!」


作兵衛に湿り気コンビを押し付けることに成功した私に食満先輩がすごい勢いで矢羽根を飛ばしてきた。


「(おいなまえ!?皆でお風呂って何のことだ!?いつ入った!)」
「(ひと月前でしょうか。先輩が委員会をサボっ…委員会に諸事情で出られなかった時に入りました)」
「(うぐっ……)」

「食満先輩、どうかしたんですか…?」
「ねえ、どうしたんだろうね。ぜんざいがおいしくて感動してるのかな」
「じゃあ僕の分ちょこっとあげます…先輩、あーん…」
「………!………!!」
「ありがとう、でも気持ちだけで十分だ。それは平太が食べなさいだって」
「みょうじ先輩、食満先輩の気持ちが分かるんですか…?」
「すごーい!!」


真実を話しただけだと言うのにどうしたんだろう食満先輩は。ダメージでも喰らったかのように胸を押さえて机に突っ伏してぷるぷるしている。
平太があーんって言った途端違う意味で震えだしたから要注意だ。可愛い後輩が怖い目に遭わない様に誘導してあげる私、何て良い先輩だろう。










「みょうじ先輩、食満先輩。やっぱり俺も払います…」
「何言ってるんだ作兵衛。お会計は俺に任せろ」
「そうだよ作。私と食満先輩が払うから、気にしなくていいの」
「でも…」
「後輩はね、こう言う時は申し訳なさそうな顔じゃなくて、嬉しそうに『ご馳走様です』って言っておけばいいの。ね?」
「…はい。分かりました。ありがとうございます、ご馳走様です!」
「そうそう、喜んでくれた方が嬉しいからな!」


遠慮していた作がはにかみながら笑って、一年生三人を店の外まで連れて行く。可愛いなあ、癒される。


「…さて、なまえ。俺にとってはお前も可愛い後輩だから、お前も出さなくていいんだぞ?」
「おやまあ。企画立案は私ですから。そんな訳にはいきませんよ。可愛い後輩の顔を立てると思って、半分ださせてくださいな」
「じゃあ、端数だけでいいから」
「半分」
「いや、端数だけで」
「半分」
「端す」
「は ん ぶ ん」
「……三分の一」
「手を打ちましょう」


渋る先輩に笑顔で迫る。本当は半分出したかったけど、まあ今回はこれで妥協しよう。

「なまえは頑固だなあ」と困ったように笑う食満先輩。
「大人しくしてろ!」と店先ではしゃぐ後輩を窘める作兵衛。
「先輩はやくー!」と急かす喜三太。
「先輩、あっちのお店から良い匂いがする〜!」とよだれを垂らすしんべヱ。
「もう…先輩に失礼だよ…」と慌てている平太。


ああ、平和だなあ。
何だか嬉しくなって、食満先輩の腕に抱きつきながら店を出た。




食満先輩が蹲ってぷるぷる震えだしたので私達はしばらくその場から動けなかった。



食満先輩がぷるぷるしてるのは可愛さに悶えてるだけです。多分。
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