夢小説 | ナノ




17:終わりと追放

小平太にお願いしたのは、六年生である小平太になら簡単にできること。

四年ろ組、みょうじなまえの部屋に忍びこみ、密書を置く。
その密書は、忍術学園の内部にかかわる情報で。
あたかも敵対関係にある城に情報を流すかのような形式にしておく。

そうすれば、アイツと同室である三木が発見するだろう。他の誰かでも良い。
いかに仲の良い友人でも、こればっかりは庇うことはできない。速攻で教師陣に話が行き、みょうじなまえは詰問されるだろう。
アイツは見苦しく言い訳をするだろうが、無駄。
消されるか、そこまでされなくても退学になるはず。
どちらにしろアイツはここからいなくなるから、後はゆっくり皆を攻略して行けばいい。


そう思っていたのに。









「園原愛美を忍術学園から追放する。異論も言い訳も認めぬ。良いな?」








どうして?


























「まあ、なんだ。上級生に粉かけたり仕事をサボるくらいならこうはならなかったが、下級生に集ったり、仕事を押し付けたりするのはダメだな!みょうじに間者の疑いをかけるっていうのがダメ押しだ!」


学園長先生の庵で、先生方に囲まれて。控えていた七松先輩がにこやかに告げ、天女様は顔面蒼白で「うそ…」と呟いた。
そりゃあ驚くだろう。七松先輩は天女側だと皆(生徒でさえ!)信じて疑わなかったんだから。


「小平太にはお主を受け止めた責任があるからのう。ずっとお主の行動を間近で監視させておった」
「天女様は我儘だからな!結構大変だったぞ!委員会に出れないしな!」
「まあ安心せい。追いだすにしても、身寄りのない人間をその身一つで放り出す程鬼ではない。お主の勤め先は既に手配しておる。心を入れ替えて働くのじゃな」
「頑張るんだぞ!」


天女様、絶句。
ニヤニヤとその様を見ていると、横から呆れかえったような冷たい視線が。そっと横を見ると、みょうじが残念な者を見るような目で私を見ていた。
何か言わねばとしたところに、天女様が叫び出した。


「愛美が追放!?だったらみょうじなまえだって追放されるべきよ!」
「みょうじが?何故じゃ」
「だって…!だってアイツは!!女なのに忍たましてるのよ!!?」


何…だと……。
何という爆弾発言。光の速さで首をみょうじに向けたらみょうじがビクッとして後ろに退いた。その瞳には若干だが怯んだような色が浮かんでいる。
珍しい。みょうじはあまり感情を揺らすタイプではないのに。よく見るとちょっと危ない感じにギラギラしてる私の顔がみょうじの瞳に映っている。なるほど、これはさすがのみょうじでも逃げるなと冷静に考えつつ距離を詰めると露骨にみょうじの顔が引き攣った。


「ちょっと、鉢屋先輩…?何で近づいて来るんですか…」
「いや、ちょっと」
「ちょっとって何ですか?ねえ、あの…」
「いいから、ちょっと」
「ちっとも良くな…もう、やめてください!」
「いてッ!」


鳩尾に綺麗な一発を貰って痛みに悶える。結構重たい一撃だった。さすが用具委員会に所属しているだけのことはあるな…!
右手で鳩尾を抑えながら何とか起き上がり、痛みを無視して続行しようとしたが、学園長先生から呼ばれて断念する。くっそ、もうちょっとみょうじで遊びたかったのに!
仕方なくみょうじと連れだって天井から室内へと降りる。さりげなく足を踏まれた。みょうじ、恐ろしい子…!
恨みがましくみょうじを見るが、ざあみろとでも言いたげなすまし顔で座る。私も大人しく横に座る。


「みょうじよ。この天女はお主のことを女子だと言っておるが、本当なのか?」
「いいえ学園長先生。私は正真正銘、男です」
「嘘よ!だったら今すぐ脱いでみなさいよ!出来ない癖に!!」


死なばもろとも。どうせ追い出されるなら自分だけでなくみょうじも道連れにしたいのだろう。どこまでも腐った女だ。
脱いでみろ、と叫ぶ天女にみょうじは嫌そうな顔をしたが、学園長の促すような視線を受けて渋々装束に手をかけた。


「…どうでしょう、これでもまだ私が女だとでも?」


装束を脱ぎ、前掛けも外したその下から現れたのはどこをどう見ても男の体だった。
口をぽかんと開けてその様を見る天女。しかしあっけにとられたのはその一瞬のみだった。


「よくも騙したな!!うそつき!性悪!!人でなしがあぁぁぁあああああ!!!!」
「っ!」


狂ったように叫び、みょうじに掴みかかった天女だったが、その手がみょうじに触れた瞬間、私の手刀が天女の手首に決まった。
怯んだ隙に腕を捻り上げ、足払いをして、押さえつける。天女は何か叫び続けていたが、「喧しいな!」と七松先輩が口を塞いでしまった。さすが七松先輩暴君。
こういう展開も有り得ると用意していた縄で手足を縛っていると、七松先輩がみょうじを呼んだ。


「さて。この天女はこれからすぐに学園から出すぞ。みょうじ、何か言っておきたいことはないか?お前はこの女にさんざん嫌な目に遭わされただろう?」


私が天女を拘束している間に先生方に迅速に保護されたみょうじは、装束を着直し天女の前に立った。
暴れまくって荒い息を出す天女に向かって、


「あなたの次の勤め先は北にある寺院だそうですよ。そこは山の奥で冬には深い雪が積もる。町には滅多に降りられず、住職様は鬼のように厳しいお方だとか。俗世から離れて神仏にお仕えすれば、『天女様』と呼ばれるに相応しい人間になれるかもしれませんよ。まあ無理でしょうけど。ぶっちゃけ自業自得です。せいぜい頑張ってくださいね。天 女 様 」


怒りに燃える天女が床に這いつくばった状態からみょうじに飛びかかろうとするのを七松先輩が抑え込む。「やっぱり喧しいな!」と腹パン。さすが七松先輩容赦ない。
ぐったりと意識を失った天女は先生方が連行して行った。七松先輩の言葉通り、このままこの学園から追放されるのだろう。これでやっと学園に平和が訪れる。


「みょうじ、怪我はないか?」
「七松先輩。はい、大丈夫です。ありがとうございました」
「みょうじ、私には何かないのか?さっき天女から引き離してやっただろう」
「先輩は私の護衛なんですから、当然のことをしただけでしょう」
「というか、本来なら天女がみょうじに触る前に退けないとダメだぞ!まだまだ鍛練が足りんな!」
「そういえば、七松先輩。鉢屋先輩が是非体育委員会に参加してみたいと仰っていましたよ」
「言ってないよ!?そんなこと言ってないでしょ!?」
「そうなのか?よし、じゃあ今からいけいけどんどんに委員会をやるぞ!付いてこい鉢屋!いけいけどんどーん!!」
「付いてこいって言いながら腕をひっぱるのはやめてくださ、ちょ、速ッ!?」




身も心もボロボロになって部屋に帰ってきた私に、雷蔵が「みょうじから」と渡してくれたのは握り飯だった。くっそ、可愛い奴め!


今更だけど、三郎から夢主への矢印は後輩愛。
たまに行きすぎて雷蔵にシメられる。
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