夢小説 | ナノ




15:下級生と真実

「見て見て兵助くん、なまえくんと喜八郎くんの簪、似合ってると思わない?」
「恐ろしいくらい似合ってるな。二人とも女装が得意だし、どこから見ても女子だな」
「それ兵助くんが言うとちょっと嫌味みたいだね☆」
「あ゛?」


簪の根回し中に偶然通りかかった兵助くんを引っ張って来て、女装姿でおててを繋いでにこにこしてるなまえくんと喜八郎くんを見せる。
兵助くんと二人はあまり接点がないみたいだけど、兵助くんは微笑ましそうに見ていた。

最近なまえくんは天女様に絡まれて大変そうだから。
僕はまだ忍たまとしては一年生だけど、年上だし。いつも勉強のお世話になってるし。

だから。


「本当はね、お揃いの簪は前から持ってたんだけど、なまえくんのがなくなっちゃったんだって。二人がしょんぼりしてたから、皆でプレゼントしたんだよー」
「なくした?みょうじって几帳面そうに見えるけど、実はズボラなのか?」
「ううん、まんま几帳面だよー。部屋もピッカピカだし」
「じゃあ何で…」
「何でだろうね」


不思議そうな顔をする兵助くんに、爆弾をひとつ。


「もしかしたら、誰かが盗っていっちゃったのかもしれないね」













「よしよし、じゃあ私が今度とびっきり美味しい冷やしぜんざいを出すお店に連れて行ってあげる。食満先輩と作兵衛も誘って、用具委員会みんなでおでかけしよう?」
「みんなでおでかけですかぁ?」
「絶対ですよ〜!みょうじ先輩!」
「約束です…」
「うふふ、じゃあ今日も頑張って委員会しようね。喜三太、ナメさんたち連れてきちゃダメだよ。お部屋でお留守番。出来るね?」
「はい!」
「連れてきたら新野先生にあげちゃうからね(※薬の材料)」
「ふえぇぇええ」


ぶんぶんとみょうじに向かって手を振る三人は、用具委員会の一年生だった。ニコニコ顔だった三人だが、みょうじが見えなくなった途端、少しばかり残念そうな顔になった。


「あーあ…せっかく用具委員会で食べようと思ったのに」
「盗られちゃったんだから仕方ないよしんべヱ」
「それにみょうじ先輩がおいしいぜんざいのお店、連れて行ってくれるって…」
「しかも食満先輩と富松先輩も誘ってくれるって言ってたし、そっちのほうが僕嬉しいよ!」
「それはそうだけど、ああ〜んやっぱり食べたかったなー。食堂のおばちゃんから貰ったおまんじゅう」
「しんべヱ、よだれよだれ」
「仕方ないよ、天女様が頂戴って言ってたんだもん」
「ヤダって言ったら何されるか分かんないしね〜!」


怖いね〜!
なんて言いながら去っていった三人とは対照的に、立ち止まってしまった俺の足。

え?何?
今の話を総合すると、天女様がしんべヱたちから饅頭を強奪したってこと?
まさか。そんな。
でも、一年生がそんな嘘つく理由がない。

そういえば。
下級生は天女様に全然近づいて来ない。上級生が囲んでいるからだとばかり思っていたが、違うとしたら?



「もしかしたら、誰かが盗っていっちゃのかもしれないね」



考え込んだのは数秒だった。すぐに決断を下すと、硝煙蔵へ進路を決める。
今日は、委員会の日だ。






「お前たちに聞きたいことがある」


委員会が終わって解散する前に伊助と三郎次を呼びとめて座らせた。何故かタカ丸さんもいるが、丁度聞きたいこともあったし気にしないことにした。
訝しげな顔をする伊助と三郎次に、単調直入に聞いた。


「お前たちは天女様のことをどう思っている?」


硬直する体。表情。伊助は視線を彷徨わせ、三郎次は真剣な目で俺の意図を探っている。
ああ、しまった。警戒させたい訳じゃない。


「お前たち下級生は天女様に近づかないだろう?俺はてっきり上級生がずっと側にいるからだと思っていたんだが、違う理由があるなら聞かせてくれないか」


出来るだけ優しい声音が出るように。
俺は目力がすごいとよく言われるのでプレッシャーを与えない様に。
気をつけた甲斐が合ったのか、とりあえず伊助が俺の顔を見るようになった。良かった。


「それを聞いて…久々知先輩はどうするんですか?」
「どうする、とは?」
「…僕達を、叱るんですか?」


三郎次が、少しだけ伊助より身を前に出して言った。
ああ、警戒しているんだな。もしもの時の為に自分より年下の伊助を庇おうとしている。あの意地悪な三郎次がこんなに立派になって、という気持ちもあったが、まずは誤解を解く必要がある。


「それが正当な理由ならそんなことはしないし、対策を練るよ」
「対策…?」
「もし、お前たちが彼女に寄り付かない理由がお前たちを守るためのものであったのなら。俺はお前たちを守るために対策を練るし、今まで気がつかなかったことを詫びるよ」
「久々知先輩…」
「だから、教えてくれないか。頼む」


頭を下げると二人が慌てているのが感じ取れた。しばしの沈黙。そして、


「……僕達下級生はあの人に脅されてるんです…」







ぽつりと語りだした三郎次の話の内容に、眩暈がした。


タカ丸さんのターン!後半空気だけど。
兵助くんは多分思考回路が少しズレてる。大筋は合ってるんだけどちょっと違う。

下級生は天女から「言うこと聞かないとあることないこと上級生に吹き込むぞ」って脅されてる。下級生は保身のために表立って反抗しない。

今頃天女様はしんべヱから奪った饅頭でお茶しているでしょう。よく奪えたな。
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