夢小説 | ナノ




13:変装と盗み聞き

天女様の好きな所?
勿論笑った顔が可愛らしい、とか優しい所、とか。
たくさんあるんだけど、やっぱり僕と三郎を見分けられることが一番かな。
だって僕、一度も三郎に間違えられたことないもの。すごいよね?


「ふーーん」
「何さその反応…。自分から聞いといて…」
「いやぁ、まさか迷い癖のある雷蔵から即答を貰えるなんて思いもしなかったからさー」


からかう様に笑う勘右衛門に雷蔵は少しだけ顔を赤くした。やはり長年一緒に過ごした友に自分の恋愛事情を知られるのは恥ずかしい。
それすらもニヤニヤして見ている勘右衛門は、「でもさ、」と笑顔のまま言った。


「天女様は本当に雷蔵と三郎の違いを見分けられるのかな?」
「え?」
「だってさ、よく考えてごらんよ。三郎は天女様に寄り付かないだろ?だったら寄ってくるのは雷蔵な訳だ」


そうだ。三郎は何故か天女様のことを好いていない。目の前にいる勘右衛門も。


「でも…天女様の方から声をかけてくださることも多いんだよ」
「そっかぁ。じゃあ、俺の勘違いかな?」


意味ありげな表情でそう言った勘右衛門に、何か引っかかるものがあった。








「…あ、みょうじ」


教室で三郎と喋っていると、窓の外にみょうじを見かけた。手には踏み鋤。きっと綾部が掘った落とし穴を埋めに行くんだろう。用具委員も大変だな。


「あっ、天女様…」


天女様がみょうじに近づいて行くのが見えて、僕はふと首を傾げた。
天女様とみょうじは仲があまり良くなかった筈。何か用があるんだろうか。


「みょうじに何の用だ…?」
「ちょっと三郎、盗み聞きは良くないよ」
「何を言う雷蔵。私達は忍たまだぞ。これも一種の鍛練だ。それに雷蔵だってあの二人が何を話すのか気になるんだろう?」
「それは…そうだけど……」
「そんなに悩まなくても、天女様は一般人とあまり変わりないんだから私達が聞き耳を立てているなんて気付かないさ」
「……そう、だね」


ここは二階だが、天女様はちょうど僕達に背を向けて立っているし、まさか二階から盗み聞きされているなんて思いもしないだろう。
天女様に申し訳ないと思う気持ちはあるが、好奇心が勝った。三郎に唆されたとも言う。
キョロキョロと辺りを見回した天女様は付近に人がいないことを確認して(僕と三郎はとっさに部屋の中に隠れた)、いままで携えていた笑顔をスッと消した。





「ちょっと!雷蔵どこにいるか知らない?」
「おやまあ天女様こんにちわ。不破先輩は今日は見かけていませんねえ」
「チッ…。使えない奴ね!じゃあ三郎は!?」
「鉢屋先輩も同じくですが。お二人とも自室にいるのでは?」
「二人が一緒にいたら話しかけれないじゃない!どうするのよ!役立たず!」
「そんなこと私に言われましても」
「口答えしないで!あのこと、バラされたいの!?」
「はぁ。すみません」
「……そうだわ、アンタがどっちかを連れだせばいいじゃない!いいわよね?」
「…鉢屋先輩はともかく、不破先輩を連れ出す理由もなしに呼び立てる訳にはいきませんよ」
「何よ!そのくらい自分で考えなさいよね、当然でしょ!…でもまあ、いいわ。今回は許して上げる。もう少し雷蔵の好感度上げときたいって思ってたのよね。雷蔵をこっちの味方にしてしまえば三郎も引っ張りこみやすいし。ふふ、愛美天才!」
「はぁ。良かったですね」
「アンタは今すぐ三郎を部屋から連れ出すの、いいわね?」


天女様はみょうじの返事を聞かずにスタスタと歩き去って行ってしまった。
みょうじは天女様の後ろ姿を見送ってから、僅かに首を傾げて、


「―――と、言う訳ですので鉢屋先輩。穴埋め手伝ってくださーい」


にっこりとくの一顔負けの笑顔を披露したみょうじ。語尾にハートマークでも付いていそうな言い方だったが、三郎にはクリーンヒットした模様。
っていうかみょうじ、僕達が聞き耳立ててるの気づいてたんだ…。


「すぐ行くから、私の分の踏鋤用意して待ってろ!……雷蔵、何現実逃避してるんだ。さっきの天女様、見ただろう」
「見た……」
「天女様がみょうじを脅迫しているところ、聞いただろう」
「聞いた……」
「で、感想は」
「よく考えたらみょうじの方が可愛いよね」
「だよねだよね!」


この後三郎に僕のフリさせて部屋に行かせて、僕は三郎のフリしてみょうじの仕事を手伝った。
みょうじびっくりしてたけど、今までごめんねって謝ったら「それ、言う相手間違ってますよ」って悪戯っ子みたいな顔で言われた。
後で図書室行くよ、って言ったら嬉しそうに笑った。あー後輩可愛い。




不憫な三郎と雷蔵様降臨。
天女様誤爆→雷蔵覚醒→後輩可愛い
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