夢小説 | ナノ




11:会計と夜食

「神崎左門、只今戻りました!」


スパァンといい音をたてて勢いよく部屋の戸が開かれた。
委員会も終わり、明日提出の課題を済ませたので風呂にでも入ろうかと立ち上がった私と神崎の目が合った。


「何でみょうじ先輩が会計委員の部屋にいるんですか?」
「ここは私の部屋だけど」
「あれ?」


まあ予想はついていたが迷子のようだ。三木の後輩だし、風呂に行く途中に送っていってあげましょう。
荷物を片手に、首を傾げる神崎の手をとって歩き出した。






「失礼します。神崎をお届けに参りました〜」
「…………」
「か、神崎先輩ッ!?」


一年たちが何やら騒がしいが、神崎がいなくなって心配でもしてたんだろうか。
委員長である潮江先輩と三木がノロノロとこっちにくる。出来ればさっさと来て神崎をしっかり繋ぎとめておいてほしい。こいつすぐどっか行くから手が離せない。いい加減腕が疲れた。


「あー…みょうじ、神崎を届けてくれたことには感謝するが……」
「…どうして神崎の足を持って来るんだなまえ。おかげで神崎が人間雑巾になっているじゃないか」
「最初は手を繋いでたんだけど、見当違いの方向に行こうとするから。三回くらいまでは我慢してたんだけど、勢いが良い分腕がビンッてなって痛いし。足を持ってれば走れまいと思って」
「逆に腕が疲れないか?下級生とはいえ三年は重いだろう」
「神崎ちっこいからそこまでは。迷子になるリスクと消費される労力を天秤にかけた結果がコレです」
「だからといって後輩を引きずってくるやつがあるかバカタレ!神崎も何か言ってやれ!」
「楽ちんだし、途中でひっくり返らせてもらって色々面白かったです!」
「うつ伏せ、仰向けのリクエストに応じる私の寛容さに感謝するようにー」
「はい!ありがとうございましたみょうじ先輩!またお願いします!」
「やーだー」


あれ、潮江先輩が顔を手で覆ってしゃがみ込んでるけど大丈夫かしら。帳簿は字も小さいし、目が疲れたのかもしれない。ざまあ。


「まあ、何にせよ助かったよなまえ。今から風呂か?」
「うん。三木は今日、徹夜なの?」
「…今週締め切りの帳簿が終わらなくてな…。先に寝ていてくれ」
「はあい」


三木がようやっと神崎を回収してくれたのでお風呂に行くことにしました。
それにしても久しぶりに委員会してる三木を見たなあ。潮江先輩もか。

…ははーん、上級生二人がサボってて間に合わないと見た。
自業自得だけど、後で夜食でも作って持っていってあげようかなあ。
















「あら、こんな夜中にコソコソと何しているのかしら?」


見つかっちゃった。面倒くせっ。
何でバレたの?こういうの嗅ぎわける能力でもあるの?
なんておくびにも出さずに、愛想よく返事する。「会計委員会の夜食を作っているんですよ」と。


「夜食ぅ?…そんなもの作ってまでアピールだなんて、必死すぎて笑っちゃうわね。あなた女を捨てたから忍たまにいるんじゃないの?今からでもくの一教室に入り直したら?」
「そんな…」


鬼の首をとったように私を責め立てる(笑)天女様。
その顔が「良いこと思いついた!」という表情を作る。分かりやすくて大変助かります。


「そうだ、それ、よこしなさいよ」
「え?」
「私が持っていってあげる。文次郎も三木も私が持って行った方が喜ぶに決まってるわ。いいでしょ?」
「…ですが、天女様にそのようなことをさせる訳には…」
「なあに?あくまで自分の手柄だっていうの?本当に浅ましくて卑しいやつね!良いから貸しなさいよ!」
「……そこまで仰るのでしたら」


半ばひったくられるように夜食のおにぎりを天女様に渡す。優越感に満ちた顔で私を見下した天女様はスタスタと会計室に行ってしまった。
まあ運ぶ手間が省けたと思うことにしよう。レッツ・ポジティブシンキング。
さっさと調理場を片づけて寝てしまおう。
はあ、今日も疲れた。


















「みんな委員会お疲れ様!夜食持ってきたよ!」


せっかく潮江先輩と田村先輩が委員会に来て下さったというに。
何で委員会でまでこの女の顔を見なければならないのか、左門にはよく分からない。
顔を出すだけでも邪魔だというのに、夜食だなんて!
そんな怪しい物、食べられな…い……?


「……これ、天女様が作ったんですか?」
「ええ、そうよ」
「………全部ですか?」
「そうよ!」


僕が話かけると一瞬煩わしそうな顔をするが(忍のたまごが見逃すはずない)、先輩達の前なので普通に返事をした天女様。
潮江先輩と田村先輩はお礼を言って休憩にしよう、と言う。一年二人がしかめっ面をしているが、僕も賛成すると渋々頷く。


「ねえおいしい?愛美、すごい一生懸命作ったんだあ」
「…ああ美味いぞ」
「…さすが天女様。お料理も上手だなんて、完璧ですね」


おにぎりを一つ取って齧る。
ああやっぱり。



これはみょうじ先輩の作ったものだ。

僕が気づいて先輩方が気づかないなんて筈もなく。


夢主のおにぎりの具が個性的だと良い。
味よりも面白みを優先させる。でも不味くはない。
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